2026年9月8日火曜日

迎賓館赤坂離宮と藤田嗣治

藤田嗣治生誕140周年を記念した特別参観が迎賓館赤坂離宮で開催されている。通常公開されていない「貴婦人と召使い」と「ポプラ並木の女性と楽士」の2点も含め、迎賓館が所有する全6点の藤田作品が見られる。

6点は全て1935年に洋菓子店「銀座コロンバン」の天井画として、藤田のパリ時代の友人だった同店の創業者の依頼で制作された。18世紀ロココ様式の画家、アントワーヌ・ヴァトーへのオマージュとされ、思いっきりフランスっぽい。

パリ画壇で大成功をおさめた藤田は、その後渡った南米でも個展が賞賛され、1933年に日本に帰国。当時は壁画がブームで、芸術を人々に身近なところに置きたいという藤田の思いもあり、これらの作品を手掛けたらしい。

藤田の天井画は戦時中は疎開・保管されていたため幸運にも焼失を逃れ、のちにコロンバンから迎賓館に寄贈された。

思いっきりフランスっぽいのは建物もしかり。迎賓館赤坂離宮本館は1909年に東宮御所として建てられた国内唯一のネオ・バロック様式の宮殿建築で、国宝に指定されている。「壮麗」という言葉がこれほどぴったりな建物を日本で他に思いつかない。


絢爛豪華な館内もヨーロッパの宮殿としか思えない。でも部屋ごとに様式が異なり、通常非公開の藤田の2作品が展示されているのは「花鳥の間」という、公式晩さん会などが開かれる部屋。天井画はフランス人画家の手によるものだが、板張りの壁には花や鳥を描いた七宝焼の額が30枚並び、本館の中では最も日本の要素が感じられた。

折角なので「和風別館」も見学した。外国の賓客を和の空間でもてなすための施設として、谷口吉郎の設計で1974年に建てられた。こちらは予約が必要で約1時間のツアーに参加する。広間と茶室は、金沢の「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」にも再現されている。


迎賓館赤坂離宮本館が建てられた20世紀初めは、西洋に追いつくことが先進国の証明とされたような時代。もしも今、一から迎賓館を作るとしたら、本館と別館のどちらが和風になるだろうかなどと考える。でも欧米での成功を身にまとっていた藤田の絵は、今の本館にしっくり収まっていることは間違いない。

(今回の特別参観は2026年9月15日まで)


2026年9月2日水曜日

大山崎山荘美術館

京都駅からJRで約15分の山崎に、「アサヒグループ大山崎山荘美術館」がある。

京都駅まで乗ったタクシーの運転手さんに山崎に行くと言ったら、「サントリーですか?いいですね」と言われ、飲料メーカー名が一瞬ごっちゃになって「ええ、そうです」と答えそうになったが、あちらは超人気のウィスキー工場。最初から山崎に酒造メーカーが集まっていたわけではなく、美術館は元々、実業家の加賀正太郎の別荘として建てられた。その加賀が、現在のサントリー山崎蒸留所の初代所長だった竹鶴政孝(「マッサン」のモデルになった人)が北海道でニッカウヰスキーを興した際に参画して筆頭株主になり、後年その株式をアサヒビール初代社長・山本爲三郎に託したことが今の美術館につながっている。山崎の水とウィスキーが繋いだ縁

山崎駅からはシャトルバスが運行している。Googleマップでは徒歩13分。「歩けるじゃん」と思うかもしれないが、目的地は「山荘」だということを忘れてはいけない。駅から美術館まではずーっと上り坂。体力に自信がある人以外は迷わずシャトルに乗りましょう。シャトルに乗っても、降車するトンネル前から建物までの300mほどの上り坂は歩くしかない(これで十分だと思った)。

坂を上り切ったところの門を抜けるとクラシックな英国風の本館が見える。京都の中心部と比べたら決してアクセスがいいとは言えない美術館に、平日の午前中から幅広い年齢層の人が大勢訪れていた。100年以上前に建てられた山荘は、取り壊しの危機を乗り越え1996年に美術館として再生された。建物内はヨーロッパの小洒落た山小屋を思わせ、テラスからは当時とそれほど変わっていないであろう自然の風景を臨める。定時に演奏される2階の大きなオルゴールは、客人をもてなす贅沢な娯楽だったのだろう。

今年2026年は開館30周年に当たり、記念の企画展が二つ開催されている。ひとつは「共鳴 河井寛次郎×濱田庄司」。もう一つは「クロード・モネ展」。同館の2大主要コレクションの民藝とモネを展示している。

民藝は前述の山本が支援していたため多数の作品があり、今回も200点以上が本館を中心に展示されている。時代も重なる木造の山荘と陶芸作品は相性が良い。実際にここで使用されていたわけではなくても、日常の中での器の姿が想像できた。

モネは「地中館」という別館にある。一目でわかる安藤忠雄建築。ガラスの回廊のコンクリートの階段を半地下の展示室へ降りていく。所蔵するモネ作品全8点が2期に分けて6点ずつ、円形の展示室の壁にぐるりと展示される。美術館が所蔵する5点の睡蓮のうち4点は、モネがのちのオランジェリー美術館の睡蓮につながる「大装飾画」の構想を練っていた頃に制作されたもの。1辺が2メートルの大型の作品もあった。

鑑賞後は庭園も一回り。モネの絵とはだいぶ雰囲気が違うが、睡蓮が咲く池もある。

ちょっとした遠足気分の美術館だった。必ず歩きやすい靴で!