2017年9月10日日曜日

ヴェネチア・ビエンナーレ2017 ①ジャルディーニ

2年に一度、半年間続くアートの祭典、ヴェネチア・ビエンナーレ。第57回の今年は5月13日から11月26日の開催。もう残すところ2か月半だが、秋になるこれからがアート鑑賞には適したな季節。観光客の数も夏のピークを過ぎている(とはいっても、人は多い。)

メイン会場は古い造船場だったアルセナーレと、庭園のジャルディーニ。いずれもかなり広く、ハイペースで見てもそれぞれ3時間はかかるので、全部じっくり見るには二日は欲しいところ。48時間チケットを買って、両会場を自分のペースで見るのがいい。更に、サテライト展示が市内のあちこちであるので、通りかかったら入ってみると、思わぬ面白い展示に出会えたりする。

今でこそあちこちで「ビエンナーレ」が開催されブームの感があるが、19世紀終わりの1895年に開催されたヴェネチア・ビエンナーレがその起源。近代オリンピックの第一回がアテネで開かれる前年のこと。ヴェネチア・ビエンナーレは、国別のパビリオンの展示が中心で、各国の代表アーティストが賞を競うことから、「アートのオリンピック」とも称されるそうだが、賞は会期の始めに発表されているので、一般の観客にとっては「アートの万博」的感覚のほうが近いのではと思う。

ジャルディーニには日本を含む30の常設の国別パビリオンがある。パッと見てその国とわかる展示はそう多くはないが、美しい流線型に納得したのはノルディック3か国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー)のパビリオン。さすが北欧デザイン。

日本パビリオンの展示は岩崎貴宏氏の「Turned Upside Down, It's a Forest」。広島出身の同氏の作品では、厳島神社を上下対称にした木のモデルが宙に浮かぶ。タイトルは、ヴェネチアが海底に打たれた無数の杭の上にあり、逆さにすれば森になるという例えになぞらえたもの。日本パビリオンは、鑑賞者が建物の下から頭を出して別の角度から見られることも特徴で、床に置かれた細いワイヤで作った工業地帯のミニチュアが間近で鑑賞できる。作品も建物も、とても日本的な細かさ。

普段見る機会が少ない国の作品を見て、時折考えさせられるのもビエンナーレの醍醐味。何の先入観もなく入ったセルビアの展示では、鮮やかでポップな作風に意表を突かれたが、よく見るとそれは、銃を持って戦う子供をYouTubeにアップするという風刺画だった。内戦やテロが身近な実体験としてある国から発せられたメッセージかと考えた。

一方、ただ笑って楽しめる作品も多数。オーストリアは垂直に立つ本物のトラック。中はらせん階段になっていて上まで登れる。観客も、1分間作品の一部になりましょう!というコンセプトの参加型アート。

ロシアは派手なマルチメディアアート。アプリを使うと見えないコンテンツが作品に重なって見えるAR体験も。
ジャルディーニのセントラル・パビリオンはアーティスト別の展示。入口を飾る大きな布も作品の一つ。Sam Gilliamの「イヴ・クライン・ブルー」。
セントラル・パビリオンは、「Artists & Book」と「Joys & Fears」の二つのチャプターに分かれ、アルセナーレの7つのチャプターに続いている。Artists & Bookは本をテーマにした展示。

クオリティの高い作品はたくさんあり、とても全部は紹介できないが、妙に印象に残ったのは、ロシアの女性アーティストの「Tightrope」というビデオ作品。二つの岩山の間に渡したロープの上を、ひとりの男性が綱渡りする映像だが、一つの山にあるラックから絵画を取り出し、それを手に持ってバランスを取りながら渡り、向かいの山のラックに移すという、意味が分からないスリリングさ。作品解説を読んだが、それでも正直よくわからなかった。アートはその人の中で作られるもので、他人が全てを理解することなんて無理だと思っている。それでも印象に残るものは、すでに成功しているのかもしれない。