2017年9月14日木曜日

ドクメンタ 14 (2017)

ヨーロッパのアート・フェスティバルを巡る旅の最後は、ドイツのカッセルで開催中のドクメンタ。1955年の第一回から原則5年おきに開かれ、今年2017年が14回目なので、「Documenta 14」と呼ばれる。今年はギリシャのアテネとの共同開催で、テーマも「Learning from Athens」。アテネでの展示は4月8日から7月16日まで、カッセルは5週間オーバーラップして6月10日から9月17日まで。もう終盤。

期間中は大学都市カッセルに、ドクメンタの地図を持った人が行き交う。過去のドクメンタの作品がそのまま市民権を得て定住したものも。中央駅前の「Man Walking to the Sky」は1992年の第9回の作品。人が空に向かって歩いていく、見ていて楽しい作品。


今回のカッセルでのシンボリックな展示は、アルゼンチンのMarta Minujínの「Pantheon of Books」。ギリシャのパンテオン神殿を本を集めて作った巨大なインスタレーション。発禁になった経緯がある本ばかりを集めた、作家に対する弾圧に抗議するメッセージの作品。

ドクメンタは芸術祭の中ではとても硬派な部類。「アテネに学ぶ」というテーマが示すように、今回はギリシャに象徴されるヨーロッパの諸問題もフォーカスのひとつ。そもそも簡単に理解できるものではないが・・・それにしても難しい展示が多い。ひとことで言うと、ビジュアルより文脈重視な感じ。多くの作品が資料そのもののように、説明が多く、読解に時間を要する。現代の作品と物故者の昔の作品の両方が展示されるのもドクメンタの特徴で、その混在が複雑さに輪をかけるように感じた。
会場のひとつ、ノイエ・ギャラリー(Neue Galerie)
今回は時間が限られていたため、すべての会場を廻ることはできなかったが、その中で印象に残ったのは、やはり視覚的にインパクトがある作品。

ノイエ・ギャラリーにあったLorenza Böttnerの「Mural(壁画)」。
男性として生まれ、後に女性名のロレンツァを名乗った彼女は、子供の頃、落雷にあって両腕を失い、差別を受けた。しかしバレエやジャズに興味を持ち、足や口で絵を描くようになったそう。この作品も足で描かれたもの。

インドのNilima Sheikhの「Terrain:  Carrying Across, Leaving Behind」は、美しい色彩の屏風の裏表に、伝統的なインド社会での女性の運命やカーストによる悲劇などを詩と絵で描いている。

ナチスや、本をテーマにした作品もよく目にした。Maria Eichhornの「Rose Valland Institute」では、ユダヤ人からナチスが奪った本が並ぶ。

ポーランド人Piotr Uklanskiの 「Real Nazis」
一方、ノイエ・ノイエ・ギャラリーの展示は、ドクメンタの中でも前衛的で、派手なビジュアルの作品が多かった。


昔の地下駅を使った会場も良かった。中央駅前の広場に設置されたコンテナから、今は使われていない線路に降りていく。


ビデオ作品などが展示されていた。明るさも充分で、広告ポスターが残ったままの古い駅の雰囲気をうまく活かしていた。街の歴史も垣間見せてくれて興味深い。


駆け足で廻ったが、2年でも3年でもなく、5年に一度だけ開催するドクメンタの規模と深さを考えると、やはり本当はじっくり滞在して鑑賞したかった。決してメジャーな観光地ではない街に世界中から人を集める力は、60年以上の歴史で培われたもので、他の街がすぐ真似できることではないかもしれないが、一過性のビエンナーレ・ブームに終わらない高品質なアートの祭典が世界に増えてくれれば、旅する目的は増え、旅はもっと楽しくなる。