2016年6月11日土曜日

北欧デザインとアートの旅 ④ARKEN

ARKENは、コペンハーゲンの中心から南に20kmの海辺にある現代美術館。


周囲を水で囲まれた「アート・アイランド」上にある美術館へは歩行者用の橋が伸びている。ARKENは1996年にオープンし、地域のカルチャーハブ化の先陣を切る予定だったが、周りは再開発が追い付いておらず、何もない。また、行ったときは知らなかったが、島の形になったのは今年(2016年)になってから。それまで建物の周りにあった茂みを撤去し、カフェからビーチを臨めるようにしたそうだ。建物自体は20年経ち、外観は少し古びているが、橋を歩いてアプローチしていく間に期待感が高まる。

コレクションは1990年代以降のコンテンポラリーアートが中心。デンマーク、北欧のアーティストの他、アイ・ウェイウェイやダミアン・ハーストなど、インターナショナルアーティストの作品も多く所蔵する。

もちろん、コペンハーゲン生まれのオラファー・エリアソンの作品も、入ってすぐのところに展示されている。



今回は20世紀のデンマークのアーティスト、ゲルダ・ウェイナー(Gerda Wegener)の回顧展を学芸員の方に案内して頂いた。アカデミー賞助演女優賞を受賞した映画「リリーのすべて(Danish Girl)」のモデルとなったカップルと言えば、ピンと来る人が多いかもしれない。


80年以上前に世界で初めて性転換手術を受けた、夫で風景画家だったアイナー(リリー)と、それを支えたゲルダの話は、映画などに任せてここでは述べないが、これまでデンマークでもほとんど回顧展が開催されることがなかったゲルダが、ハリウッド映画によって注目され、故郷で再び脚光を浴びることとなったのは興味深いと思う。

イラストレーターとしても活躍したゲルダは、多くの広告を手掛けた。当時、イラストレーターは芸術家と見なされていなかったことも、ゲルダの評価を遅らせることにつながったのかもしれないが、彼女の作品は、現代にも十分通用する洗練されたテイストがあり、才能ある人だったことがわかる。





ゲルダがリリーをモデルにした絵画は数多いが、これは男性画家としてのアイナー、女性としてのリリー、そしてゲルダ自身が一枚に収まった珍しい作品。


また映画で、リリーが自分の中の女性に気づくきっかけとなったバレリーナの絵の実物も展示されていたが、これは実際にはリリーがカミングアウトした随分後に描かれたものだったそう。


初めて見たゲルダの作品も、学芸員の方にその背景の説明を受けたことで、とても見応えがある体験となった。やはり、人に一対一で説明して頂くことには、オーディオガイドでは得られない価値がある。

ARKENは中長期的に、周りにスカルプチャーパークを建設し、訪れる人が触ったり中に入ったたりしてインタラクティブに楽しめる空間を作ることを計画している。これからも発展を続けるARKEN、また訪れたい。