フランスのコートダジュールに、ヴィルフランシュ=シュル=メール(Villefranche-sur-Mer)という小さなリゾート地がある。ニース空港から車で東へ40分くらいのところで、モナコやカンヌのような華やかさはないが、テラスレストランで白ワインでも飲みながら、しばし道行く人々を眺めて過ごしたくなるような、そんなチャーミングな街。海沿いの道にはカラフルさにレンガ色を少しだけ混ぜたような建物が、コバルトブルーの空を背景に並ぶ。景観の統制のため、建物に塗っていい色は指定されていると聞いた。
通りの端にはサン・ピエール・チャペル、通称「コクトー・チャペル」がある。ヴィルフランシュ=シュル=メールは昔から文化人やセレブに愛されており、ジャン・コクトーもその一人。16世紀に建てられたチャペルは長い間、漁師たちの網の保管所や裁判所として使われていたが、1957年にコクトーが外装と内装を手掛けてチャペルとして復活した。
コートダジュール各地で休暇を過ごし、たくさんのインスピレーションを得たコクトーは、2つのチャペルの装飾をしており、最初がこのサン・ピエール・チャペル。当時このチャペルの所有者だった漁師への友情の印として、依頼を引き受けたのだそうだ。コクトーは斜め向かいの「Welcome Hotel」に住んでいた。
内部には聖ペテロの一生や漁師の生活の壁画が天井まで全面に描かれている。残念ながら建物内は撮影禁止。別に写真くらい撮らせてくれてもいいじゃないと思うが、そんな人のために絵葉書が1ユーロで売られている(私も買ってしまった)。まあ、カメラに収めるより記憶に留めることのほうが大切なのも確か。
チャペルは今でも地元の漁業組合に属しており、聖職者は常駐していないが、結婚式場としても利用されている。
ヴィルフランシュ=シュル=メールと空港の間には、ニースの海岸線まで一望できる展望台や古い砦もある。フライトの前にちょっと時間を割いて行ってみるのもいい場所だと思う。