2021年7月18日日曜日

清春芸術村

ギュスターヴ・エッフェルと、谷口吉生と、安藤忠雄の建築が一度に見られる場所がある。・・・いったい、どんな?

百聞は一見に如かずで、山梨県の清春芸術村へ。甲府からローカル線で約30分の長坂駅からタクシーで5、6分のところにある。

門をくぐるとチケット売り場は空っぽで、外にいたスタッフらしき人が中に向かって「おーい、お客さん!」と叫ぶと、係の人が走って出てきた。のんびりした梅雨明けの平日。

清春芸術村は、志賀直哉や武者小路実篤など白樺派の作家たちの夢を実現するために開かれた場所。オープン当初から徐々に建物を増やし、今では敷地内に10以上の建物や作品がある。春は桜の名所として知られるが、7月の鮮やかな緑と青い空もまぶしい。


入口近くにある円形の大きな建物はギュスターヴ・エッフェル設計の「ラ・リューシュ(蜂の巣)」。1900年のパリ万博のワイン館として建てられ、その後、モディリアーニや藤田嗣治などエコール・ド・パリのアーティストたちが集うモンパルナスの拠点となった。オリジナルは今もパリにあり、ここにはそれと同じ設計で、やはりアーティストの制作の場として1981年に建てられた。ショップなど一部を除いては外観のみの見学。

そのエッフェルの代名詞といえるエッフェル塔のらせん階段の一部も展示されている。1994年に取り換えられたとき24分割されたうちのひとつだそう。

谷口吉生設計の「清春白樺美術館」には、前述した白樺派の作家たちの作品や資料の他、ルオーの版画も展示されている。志賀直哉が絵を描いていたことや、彼らがルオーを崇拝していたことなどもわかり、興味深い。

隣には、やはり谷口吉生による「ルオー礼拝堂」がある。入口のステンドグラスはルオーの作で、中の木彫りの十字架はルオーの彩色によるオリジナル。小さな美術館のような礼拝堂。


そこから草木に隠れて見落としそうになる小道を入ると、「梅原龍三郎アトリエ」がある。吉田五十八の設計で、1989年にここに移築されたもの。中には入れないが、画家が制作していたアトリエの様子が再現されている。


清春芸術村で最も新しい建物が、2011年に開館した安藤忠雄の「光の美術館」。中にはスペイン人アーティスト、アントニ・クラーベの絵画が展示されている。その名の通り、斜めに切られた天窓からの光そのものが展示の一部を成していることは言うまでもない。




庭の片隅に生えているかのような建物は、藤森照信の「茶室 徹」。2006年完成。地上4メートルの高さにある茶室にはハシゴを使って入るようになっているが、内部は公開していないので、地上から眺めて中を想像するのみ。

このように清春芸術村には、設計から数えれば1900年から2010年代まで110年以上にまたがる、様々な著名建築家が手掛けた建物が集まっている。それらは別に統一性があるわけではなく各々個性を発揮しているのが、まさに「ラ・リューシュ」のようなアーティスト・コミューン的。

誰にも会っていないのに、色々なアーティストに出会ったような、静かでカラフルな場所だった。