2021年7月1日木曜日

隈研吾展で確認した旅とVRの関係

東京国立近代美術館で開催中の「隈研吾展」を見た。

隈氏の世界各地の過去、現在、未来の建築作品の模型がテーマ別に展示されている。見に来ているのは建築関連の仕事の人や学生が多いようで、平日にしては他の美術展に比べて賑わっている印象。メモを取りながら鑑賞している人もちらほら。

私はもっぱら「次に見に行きたい建築」を探すモードで鑑賞。V&Aダンディーが「世界の素晴らしい場所100選」に選ばれたと聞けば、やはり行ってみたいと思うし、ユニークな模型を見れば、これがいったいどう街中に溶け込んでいるのか見てみたいと思う。今回の展覧会で隈氏が「人が集まる場所」としての建築の役割を提示しているように、単体のモニュメントとしてだけではなく、その土地に「旅先」としての引力を与えることが出来るのも建築のひとつの力だと感じる。

展示されていた「V&A Dundee」模型

そうして空想旅行をしながら見る展示も面白かったが、今回、個人的に最もときめいたのはVR体験コーナー。富山市ガラス美術館が入る建物「TOYAMAキラリ」の内部をドローン撮影した7分間の360度映像を体験できる。

私は実際に訪れたことがあるので、その時を思い出しながら体験開始。まず歩行者の視点で建物に入ると、映像は一気にドローンに乗って斜めの吹き抜けを6階まで上昇!本当に飛んでいるような気分。歩行ではありえない視点を得ることで改めて建物の構造がよくわかるし、実際には見ることができないディテールも見られる。そして同時に、自分が見た景色の記憶も鮮やかに蘇る。

VR映像は他でも何度か見たことがあるけれど、今回ほどリアルに感じたことはない。現実の記憶をバーチャルな情報が補完して、自分の記憶の一部になるかのような感覚。逆もまた真なりで、現実の記憶が、バーチャルな情報の理解と取り込みを助けてくれる。

うーん、人類の記憶の書き換えはこうして進むのだろうか。

それはともかく、VRのような疑似体験が旅の可能性を拡げてくれるのは確かだと思った。ただ、それはリアルな旅の体験があって初めて完成を見る気がする。

TOYAMAキラリに行ったことがない人も、ここでVR体験をした後で行ってみれば、視点が変わり、一層印象に残る訪問になるはず。

テクノロジーはこれからもきっと、リアルな旅の動機を作り続ける。

模型の中に猫が潜んでいた