2022年10月26日水曜日

ヴェネト州の旅② パッラーディオ建築の街ヴィチェンツァ

初めてなのにどこかで見たことがある建物。ヴィチェンツァの「ラ・ロトンダ」からはそういう印象を受けるかもしれない。

北イタリアのヴィチェンツァは、ヴェネチアから電車で最短約45分、ヴェローナから同約25分、フレスコ画で有名なパドヴァからはわずか15分でアクセスできる。そこに残る16世紀の建築家アンドレア・パッラーディオの建築は「ヴィチェンツァ市街とヴェネト地方のパッラーディオのヴィッラ」として世界遺産に登録されている。

パッラーディオは1508年にパドヴァで生まれ、10代後半から生涯のほとんどをヴィチェンツァで過ごした。ヴィチェンツァでは彼の建築家としての初期の作品から最後の作品までが見られる。

冒頭で述べたラ・ロトンダは、建築家として脂がのったパッラーディオ50代後半の作品。街の中心からは外れるが、ヴィチェンツァ駅からバスで10分程度で行ける(週末のみ公開)。個人の邸宅として建てられたラ・ロトンダは周りの自然と建物との調和も美しい。

ラ・ロトンダはローマのパンテオンに影響を受けている。そしてラ・ロトンダを含むパッラーディオ建築は世界中の様々な建築にインスピレーションを与えてきた。アメリカのホワイトハウスもその一つ。なのでほとんどの人がどこかで一つくらいはその流れを汲む建物を(写真だけでも)見たことがあるはず。

ラ・ロトンダの堂々として均整がとれた姿は、建築家でなくても「お手本」と呼びたくなる。4面にファサードがあるのが特徴で、どこから見ても正面のようなスキがない造り。でも4面が全く同じなわけではなく、パッラーディオは各面が周りの風景と調和するよう微妙に調整したらしい。

一方室内は、左右均等な外面とは対照的に、著名な画家に描かせた優美なフレスコ画で埋め尽くされている。


市内中心のシニョーリ広場に面した「バシリカ・パッラディアーナ」は、パッラーディオの出世作。15世紀に建てられた建物の改修案として、まだ30代だったパッラーディオはアーチと柱を組み合わせた開口部を持つロッジア(開廊)を設けることを提案。後に「パッラーディアン・ウィンドウ」と呼ばれるこの様式が用いられた最初の例だった。このバシリカをきっかけにパッラーディオは、北イタリアのトップクラスの建築家の仲間入りをした。

バシリカは公会堂として利用されており、訪れた日は1階のホールでは地元の子供向けのワークショップをやっていた。

運良くバシリカ最上階のテラスに出られる日で、そこからの時計台やシニョール広場の眺めも素晴らしかった。ヨーロッパの街には必ずと言っていいほど美しい広場があり、地元の人々で賑わっている。



パッラーディオの生涯最後の作品は1580年に着工した「テアトロ・オリンピコ」。世界初の屋内劇場。実はここもラ・ロトンダも、パッラーディオは完成前に亡くなっており、その跡を継いだのがヴィンチェンツォ・スカモッツィ。テアトロ・オリンピコの遠近法を使った舞台背景はスカモッツィの手によるもので、これが劇場をより魅力的にしている。舞台の奥には広い街が続いているような錯覚を起こさせ、スケールを大きく感じさせる。




もうひとつ、番外編的なお勧めは「パッラーディオ・ミュージアム」。テアトロ・オリンピコのチケットを買う際、「2か所以上行くならこれがお得よ!」と受付の人に勧められるままに市内の観光地4か所に入場できる共通券を買ったので、「ついで」のつもりで入ってみた。そうしたらこれが結構面白い! 8つの展示室は「石の部屋」、「絹の部屋」、「ヴェネチアの部屋」など材料やテーマ別に分かれていて、パッラーディオ建築に関する最新の研究成果を、模型を含むマルチメディアで展示。


あちこちの部屋で見かける「壁に浮かぶおじさん」たちもいい。大学教授などの専門家が白い壁にプロジェクターで投影され、ひとりで延々と説明をしている姿がけなげでユーモラス。



ヴィチェンツァ市内には他にもパラッツォ・キエリカーティ(市民絵画館)や、サンタ・コロナ教会(ベリーニの絵画「キリストの洗礼」もある)のヴァルマナラ礼拝堂などのパッラーディオ建築がある。是非、ヴィチェンツァで一日パッラーディアン・ウォークを。