ワインもアートも好きな人には、これ以上の旅行先はない。南仏プロヴァンスにあるシャトー・ラ・コスト(Chateau la Coste)はワイナリー兼ミュージアム。それもかなりハイレベルな。
マルセイユ空港から車で約30分。民家や畑しかない静かな道を進み、シャトー・ラ・コストに到着。天気のいい暖かな日曜日。レストランやショップは日帰り客でも賑わっていた。
広い敷地には5つ星ホテル、ファインダイニングのレストラン、オーガニックのワイナリー、美しいブドウ畑、そして世界的に著名な建築家やアーティストたちの作品が多数。天国のような場所に笑みが抑えられない。コロナ禍で旅ができなかった間、どんなにここに来たかったことか!
ホテル棟の Villa la Costeは28室のヴィラで構成されるラグジュアリー・アコモデーション。部屋のテラスから臨むブドウ畑のパノラマは絶景。正面に見えているのはカベルネ・ソーヴィニョンの畑。
さて、シャトー・ラ・コストの魅力をフルに理解し楽しむためには、ワイナリーツアー、およびアートツアーに参加するのがいい。
シャトー・ラ・コストは2002年にアイルランド人の富豪・Patrick McKillen氏がワイナリーを買収。そして彼は名だたる「近しい友人」たちに作品を依頼し、アートと建築の要素を追加して2011年に一般公開した。
その友人リストがすごい。ジャン・ヌーヴェルがデザインしたワイン工場だなんて。
1時間のワイナリーツアーではまず工場を見学。二つの棟があり、一棟で選別されたブドウをパイプを通してもう一棟に運び、大きなタンクで発酵させる。ここではオーガニックと手作業の要素を重視。ビオディナミ製法を取り入れ、できる限り添加物を入れないポリシーでワインを作っている。そして機械での作業と並行して必ず人間の手作業も行う。保存料の亜硫酸塩ゼロの商品も作り始めている。
工場見学の後はもちろんテイスティング。スパークリングはプロヴァンスらしいロゼ。ワインは軽やかな口当たりのものからフルボディの赤まで一通り揃う。作られた土地で飲むワインは格別!
ワイナリーツアーは工場とショップ内のテイスティングカウンターで完結するため、ブドウ畑の風景を満喫できるのはむしろアートツアーのほう。200ヘクタールの敷地内には約40の作品が点在しており、ほとんどがこの場所のために作られたコミッションワーク。その日のアートツアーは他に参加者がいなくて、みっちり2時間のプライベートツアーでほぼすべての作品をカバーしてくれた。
ツアーのスタートは安藤忠雄設計のアートセンター。
池のルイーズ・ブルジョアの蜘蛛は、六本木ヒルズにいるのより背が低い。
隈研吾の「KOMOREBI(こもれび)」という作品では、ガイドさんに木漏れ日の意味を確認され、教えてあげたら「ああ、良かった。間違ってなかった」と安心していた。英語には木漏れ日という単語はない(そういえば去年の朝ドラでもそういうエピソードがあったのを思い出した)。
鉄でできたトロッコ列車はボブ・ディランの作品。ボブ・ディランって歌う人じゃなかった? 絵や彫刻もやっていると初めて知った。鉄のパーツをすべてアメリカから運んだそうで、輸送が大変だったらしい。
フランク・ゲーリーのミュージック・パヴィリオンは、コンサート会場として使われている。
ゲーリーの作品はもう一つある。巨大な彫刻作品を中に入れた3つのショーケース。中の彫刻は彼が若い頃にインスピレーションを受けたトニー・バーラントの1968年の作品。ゲーリーのスタイルの源泉を知ることも興味深いし、バーラントとゲーリーの50年の時を超えた共演もいい話。こういう話はツアーで説明を聞かないとなかなか知る機会がない。
他にもすべて挙げることはできないが、好奇心をそそられる作品、絵になる作品、説明を聞いてへえーと思う作品がたくさんある。そして新しい作品も増え続けている。
あっという間の2時間。起伏がある土地をだいぶ歩いたのに全く疲れを感じなかった。終わるころには日が暮れかけていた。収穫が終わり少し黄色く色づき始めたブドウの葉が秋の深まりを告げている。
青空の下で散策したブドウ畑とアートの風景は魔法のようで、脳裏から離れない。もっと長く滞在したいと思わせる場所だった。
実はシャトー・ラ・コストでは、現在のヴィラよりカジュアルな新しい3つ星ホテルの建設が、来年の夏をターゲットに進んでいる。こんなことを言ったら怒られるかもしれないが、それを聞いて私は少し残念だった。エクスクルーシヴさがここでの滞在の価値を高めていると思うので、それが薄まってしまわないことを願う。
でも、また行こうと思っている場所であることには変わらない。
(2023年12月追記: 結局、新しくできるのは3つ星ホテルではなく、素敵なオーベルジュになったそうだ。楽しみ。)