2021年3月20日土曜日

表参道の神殿

表参道にある杉本博司さんのオブジェ。空間全体のデザインが「究竟頂(くっきょうちょう」という。

「究竟頂」とは金閣寺の最上階の三層の呼び名だそうで、天上界、極楽浄土を意味するらしい。もうできて7、8年になる商業ビルの中にあるが、お店が並ぶ通路ではないため、あまり気づかれていないと思う。人も少なく、神殿のような、教会のような、厳かな雰囲気の異空間。

ちょっとペースをリセットしたいときに立ち寄りたい場所。


2021年2月26日金曜日

フランク・ロイド・ライトの自由学園明日館

「自由学園 明日館(みょうにちかん)」は、日本に残るフランク・ロイド・ライトの4つの建築のうちのひとつ。

池袋駅から静かな住宅街の細い路地を5分ほど歩くと、堂々とした建物が現れる。

今からちょうど100年前の大正10年(1921年)に建てられた自由学園明日館は、最初の13年間だけ女学校の校舎として使われた。その後、1990年代に老朽化による取り壊しの危機を乗り越え、重要文化財に指定された今は見学者も受け入れ、「動態保存」の形で運営されている。

当初、学園の創立者夫妻が建築家の遠藤新に設計を依頼したところ、帝国ホテルの設計で来日中だったライトのアシスタントをしていた彼が、いっそライト先生にお願いしては?と提案し、実現したとのこと。歴史は得てして偶然のつながりで生まれる。

内部は建物の歴史や各部屋のエピソードの説明を読みながら自由に見学できる。木や石を多用した建物全体にライトらしい幾何学的装飾が施され、日本の同時代の他の洋館が持つ「レトロさ」とは少し違う「本格的モダンさ」を感じる。

当時は教室に照明はなく、窓からの自然光だけで授業をしていたそう。雨の日はかなり暗かったらしい。

椅子も見どころのひとつ。1階中央の大ホールに置かれた六角形の背もたれのお洒落な椅子は、遠藤またはライトがデザインしたとされる。


大ホールの壁のフレスコ画は創立10周年の1931年に制作されたもの。割烹着姿の女学生たちの制作風景の写真があった。フレスコ画を選んだことも珍しかったのではと思うが、その後上塗りされてしまったのが建物の保存修理の際に発見され、修復に至ったいう経緯にも、有名絵画のようなドラマを感じる。


2階の食堂にも遠藤がデザインした椅子がある。こんな素敵な環境でお昼を食べていた100年前の学生たち…。


食堂から少し階段を上がった大ホールを見下ろす位置にあるミニミュージアムには、建物の模型や、ライトの米国の他の作品の写真も展示されている。



道を隔てた向かいには遠藤新の設計による講堂もあり、こちらも見学ができる。


建物の美しさだけでなく、創業者の教育理念や、当時の学びの場としての豊かさも垣間見ることができる素晴らしい文化財だった。


2021年2月24日水曜日

帝釈天で彫刻鑑賞

「彫刻の寺」とも呼ばれる柴又の帝釈天の境内は数多くの彫刻で飾られている。中でも「彫刻ギャラリー」は必ず見学したい場所。


彫刻ギャラリーの目玉は「法華経説話彫刻」という10枚組の木彫り。大正から昭和にかけて制作された欅の厚板の胴羽目彫刻が、帝釈堂の建物の三方を取り囲む。東京の10人の彫刻家の競作で、いずれも劣らぬ力作揃い。それぞれが物語の一場面を細かにそして立体的に表現し、20センチという板の厚さ以上に奥行きを感じさせる。


彩色されていないのに、今にも動き出しそうな臨場感と躍動感。繊細な花の質感もリアルだった。その緻密な彫りの技量にただただ感動。


この胴羽目彫刻は、もともと横山大観の「群猿遊戯図」が彫られる予定だったのが、何かの理由で変更になったらしい。大観による下絵とされるものが大客殿に飾られている。果たしてこちらが実現していたら、だいぶ違った感じだったんだろうと想像する。


この大客殿と庭園の「邃渓園(すいけいえん)」は、彫刻ギャラリーとセットで見学できる。大客殿から伸びる回廊を歩いてぐるりと庭園をめぐる。


平日で人も少ない庭園散策は、ちょっとしたオアシス。芸術と緑に触れてリフレッシュされた訪問だった。


柴又の山本亭と、ノスタルジックな町並み

葛飾の柴又へ。柴又といえば日本人にとっては寅さんの代名詞だが、それだけではない。ここには海外でも名高い日本庭園「山本亭」がある。

山本亭は「Sukiya Living」というアメリカの日本庭園専門誌のランキングで常に上位に入っているそうで、2020年の発表では4位だったことを告げる嬉しそうな張り紙が入口にあった(ちなみに18年連続1位は島根県の足立美術館)。

そう聞くと、何か鑑賞の心得をもって臨まなくてはならないような気になるが、そんなことは全くなく、素敵なレトロ邸宅として見に行くだけで十分楽しめる。実際、入館料も100円(2021年2月現在)でとても敷居が低い。


山本亭は大正末期から昭和初期に建てられた個人の邸宅。書院造をベースに西洋の要素を取り込んだ近代建築の母屋の前に伝統的な庭園が広がる。


庭園に沿って伸びる長い廊下には、当時流行りだった大きなガラス戸がはめ込まれ、明るい自然光が家全体に差し込む。間仕切りを取り払った広い和室に座り、ゆっくりお茶をいただきながら、窓枠を額縁に見立て静かに庭園を眺めるひと時を過ごすのがお勧め。


松の木の雪吊りの立派なこと。花が咲く春も美しいに違いない。



さて、山本亭ですっかり穏やかな満ち足りた気持ちになったところで、せっかくここまで来たのだから、やはり「寅さん記念館」にも行ってみたい。山本亭とのセット券も販売されていて、柴又駅方面からは山本亭の敷地を通ってアクセスできる。


行ってみてわかったのは、寅さん記念館は、寅さんファンでない人も、寅さんの映画を全く見たことがない人も楽しめる必見スポットだということ。特に縮小サイズで再現された昭和30年代の帝釈天参道の町並みの精巧さには目を見張った。店先の商品や張り紙から、縁日の屋台で売られている小さなお面のひとつひとつに至るまで、ディテールの再現にも一切手抜きがなく、見事!これは世界に誇れるレベルだと思う。

現在の帝釈天参道にも旧き良き時代の雰囲気を残す柴又は、2018年に都内で初めて国の「重要文化的景観」に選ばれたとのこと。優しく楽しいノスタルジーに満ちた町だった。



2021年1月21日木曜日

モダン邸宅とレネ・リートマイヤー展

オランダのアーティスト、レネ・リートマイヤー(Rene Rietmeyer)の個展を見に行った。

今回、作品と同じくらい楽しみにしていたのはその会場。今は「九段ハウス」と呼ばれている旧・山口萬吉邸。昭和2年(1927年)竣工の洋館で、東京タワーを手掛けた内藤多仲の設計。登録有形文化財に指定されている。以前一度行ったことがあり、学校やビルに囲まれてそこだけ時間が止まったような、また、できた当時から明らかに周りとは違ったであろうその場所は印象に残っていた。


個展のタイトル「Existence」は、リートマイヤー氏が常に追究しているテーマらしい。彼のホームページのトップには「結局のところ、私の作品は私の存在の証明でしかない」とある。

地下のフロアに入ると絵の具の匂いがした。展示された作品にはどれも「Kudan House 2021」とサインがあるので、アーティストが今月ここで描いたばかりなのだろう。同じ大きさの白い紙に直接絵の具を乗せて、似たようなパターンの四角形がそれぞれ違った色の組み合わせで描かれている。「最も気分に合うものを選んでください」という心理テストを思わせ、作品の意味を問うより、自分にとって落ち着きがいい色の1枚をつい探してしまう。


邸宅はスペイン風のデザインで、大きな窓に面したポーチに立つと、どこか外国のコロニアル風リゾートにいるような気分になる。階段の手すりや床など、内部のディテールの美しさにも目を惹かれる。その先進性は見かけだけではなく堅牢な造りにも反映されていて、鉄筋コンクリートで壁の厚さが24㎝もあり、現在の耐震基準さえも上回るそう。空襲を生き残ったのも納得できる。




日本語で「モダン」という言葉を使うとき、必ずしも「現代的」という本来の意味だけでなく、「古き良き時代の最先端で、今もエレガンスを保っている」というニュアンスを含むように思う。90年以上前に建てられたこの洋館はまさにウルトラモダン。


時を超えた異空間でのひと時だった。

2021年1月3日日曜日

ソル・ルウィットのウォール・ドローイング

2021年明けて早々の東京国立近代美術館。今年は帰省せずに都内に留まっている人が多いはずだが、さすがに三が日の人出は少なく、ゆったり鑑賞できた。

「眠り展」という、眠りをテーマにした企画展をやっている。最近、国内の公立美術館同士が協力してコレクションを結集させる展示が増えたような気がするが、これもそうで、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館の所蔵作品を交えて構成されていた。美術館はコロナの影響で来館者が減っているため、海外から大型作品を借りにくくくなっていると何かで読んだことがある。この企画がその影響を受けたものかどうかは知らないが、むしろそうした制約は、日本の多くの美術館にとってチャンスでは?と思う。海外からの作品に注目を奪われがちだったこれまでより、日本の美術館が持つコレクションが注目されやすくなる。行ったことがない美術館から出品された作品を見て「へえ、この美術館、こんないい作品持ってるんだ」と注目し、次はその美術館に行ってみたいと思う人もいるだろうし、さらには周辺地域の観光需要にもいい影響があるかもしれない。

そう言っている私も、以前はアートの旅と言えば、自分で行くにも人に勧めるにも海外を中心に考えていた。でも実際、この半年くらいで国内にある作品の素晴らしさを再認識し、「足元を見ろ」と言われたような気がしている。

さて、この東京国立近代美術館もコレクション展だけでも十分楽しめるところだが、今回は12月に公開されたばかりのソル・ルウィットの壁画に注目していた。ミニマリズムやコンセプチュアル・アートで知られるルウィットが生涯で制作した1270点以上のウォール・ドローイングのうち、769番目のものだそう。3階の「建物を思う部屋」にあり、4階からもその上部が見える。


一見、直線と曲線が無造作に描かれているような壁画は、予め決められた16種類の線のうち2つが組み合わされた四角形のマスで構成され、全部で120種類のパターンがある。

ルウィットは、自身はウォール・ペインティングの構成を決め、実際に描くのは基本的にほかの「ドラフトマン」に任せたそう。なので彼の死後(2007年没)も、作品は世界各地で作られ、展示される(多くは展覧会の期間が終われば撤去される)。このウォール・ペインティングも日本人のドラフトマンが担当している。

いわば「死なないアーティスト」のシステムを作ったルウィット。海を越えて作品を貸し借りすることも難しくなる状況さえ見越していたのだろうか。数学みたいなパターンの「指示書」が描かれた壁を見ながら思った。



2020年12月29日火曜日

琳派と印象派とアーティゾン美術館

アーティゾン美術館で開催中の「琳派と印象派」展へ。


2020年1月にリニューアルオープンして以来、この美術館の空間が気に入っている。大きなガラス面に囲まれた明るい吹き抜けのロビーは、美しいものが待っているという期待感を高めてくれる。


今回の展示の目玉は何といっても、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」。京都・建仁寺からやってきた本物で、後期のみの展示なのでそれを待って出かけた。描かれたのは約400年も前なのに、現代の日本人の大多数がきっと一度は見たことがあり(それが光琳や酒井抱一の模写だったとしても)、誰が描いたのか知らなくても見せられれば「ああ、それ有名だよね」と認識できる日本の絵画作品はそう多くはないだろうし、そういう意味ではフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」に匹敵するポピュラーさだと勝手に思っている。(これが「モナリザ」だと、ほとんどの人がタイトルも作者も言えるレベル。)

色々な人が模写しているが、個人的には宗達のオリジナル版が、風神と雷神の色も含めて一番気に入っている。そして、以前建仁寺で複製を見たときには感じなかったーとまでは言わないがー、今回の本物の展示を見て改めて、今にも前進してきそうな風神と、宙に浮いて雷を操る雷神の「動き」を感じた。やっぱり本物は違う、などと言ってしまえばそれまでだが、むしろ「本物を見ている」という思いが、鑑賞者の気づきに影響するのだろう。今は複製も高精細で、情報量としては本物と同じかそれ以上に違いないが、複製と言われるとどこか冷めた目で見てしまう。情報をくみ取って吸収するかどうかは、見る者の心構え次第で大きく変わる。

その延長で考えると、最近よく話題になっている「オンライン・ツアー」も一種の複製。自由に旅行に行けない状況下でのエンターテイメントとしては理解しつつも、実際に旅するときに発生する「熱量」のようなものは感じることができない。その熱量があって初めて、旅は体験として吸収され、あとで「思い出」に姿を変えるのだと思う。

展示に話を戻すと、今回の企画展は琳派と印象派という東西の美術を「都市文化というキーワードで再考する」趣旨とあったが、印象派は石橋財団コレクションの真骨頂ともいえる部分で、それぞれ単独の展示としても十分見ごたえがあった。

アーティゾン美術館の展示スペースはリニューアル前の2倍の2100平米になり、充実した国内外のコレクション展が見られるのも素晴らしい。

4階のインフォルームも美しい空間。どうやら壁の棚のデザインは本のページをイメージしているよう。


絵になる建物の美術館は、それだけでもまた行きたいと思う。