2012年10月1日月曜日

日本のワイン

9月最後の週末、長野県東御市のワイナリーのブドウ収穫に参加した。
このワイナリーが最初に自社で醸造を始めた2年前から、縁あって参加の機会を頂いている。

普段はガーデニングの類はほとんどしない私も、この作業はとてもはまる。
今にもはじけそうな実がぎっしり詰まったソーヴィニヨン・ブランの房を取り、傷んだ実(粒)をひとつひとつハサミで取り除いていく。

山と畑に囲まれた土地で、聞こえるのは葉擦れの音と、虫の声。
東京で秋の虫の声を聞くのは夜だけなので、あ、虫って昼間も鳴いてるのね、と、当たり前なことに今更気付く。また、突然カエルが大合唱を始めた理由がわからず、ただ笑ってしまう。

そんな環境で無心に作業に没頭し、ひとつひとつの房を完璧に仕上げ(たと思う)、カゴに入れていく。悪い実を残してしまうと、それがワインにも影響するので、敬意を払い、丁寧に。

このワイナリーをはじめ、日本のワインが近年めきめきと質を上げていることも、収穫作業を一層興味深いものにしている。

収穫の前夜、軽井沢の「Yukawatan」で食事をした。

ホテルブレストンコートの離れにあり、誘導路の長さが演出する期待感を裏切らない、素晴らしい料理を出すお店。未就学児お断りのポリシーも、ある程度の感性と理解力を要求する料理を、それに合ったターゲット層に、相応しい空間で提供しようとする店の姿勢を表していて、好感が持てる。

地元の食材をフィーチャーした料理に合わせるワインリストの中心にあるのは、長野のワインだった。ドメイヌ・ソガ、Rue de Vin、城戸ワイナリーなど精鋭ラインアップ。(去年自分が摘んだソーヴィニヨン・ブランをリストに見つけ、ちょっと嬉しくなる。)

金額もフランスの一流シャトー並みで驚いたが、その中で選んだシャルドネは、香りも味の深みも、かつての「日本のワイン」からイメージするものからはかけ離れており、食事の最後まで楽しめるものだった。

ソムリエが自信を持って勧められる「地ワイン」が増えるのは、旅の客にその土地への興味を深めてもらう意味でもいいことだと思う。

まだ日本では少ない上質な「泡もの」も、これからどんどん出てきますように!

2012年9月29日土曜日

森を歩くかのごとく、アートを見る

昨年11月にオープンした軽井沢千住博美術館へ。

一歩入ると、空間の美しさに息を呑む。
最初に目に入るのは、すっと立つ白い壁に掛かった、大きなウォーターフォールの絵。
曲線的なガラスの壁に囲まれたフロアを進んでいくと、まるで木々の間を覗き見るように、展示作品が不規則に現れる。
地形に合わせてなだらかに傾斜した床は、鑑賞というより、散策という言葉が似合う。

実際、建物の中にも森が存在する。
いくつかの吹き抜けスペースに配さたカラーリーフガーデンは、自然界に存在する微妙な色のグラデーションを見せてくれる。
丁度降っていた雨がその箱庭の木々の葉に注ぎ、一層生き生きと見えた。

ブラックライトに照らされた「ナイトフォール」の展示室も必見。
オランジェリー美術館のモネの展示室を連想させる空間。
霧のような水しぶきが今にもかかってきそうな、静かな臨場感に圧倒される。

SANAAの西沢立衛氏が設計した空間と、千住氏の作品が一緒になり、全体で新たなアートエンターテイメントとなっている。素晴らしい。




2012年9月18日火曜日

デジタル化で得たもの、失ったもの

最近、昔撮った写真のネガをスキャンして、デジタルファイル化している。
昔といっても、15年ほど前からデジカメを使うようになる前までの間のもの。

写真は分厚いアルバムに張ってきちんと保管していたけれど、重いし、出してきて見ることなんて結局ほとんどなく、膨大な旅先の写真も眠っているだけだった。
でもデジタル化しておけば、ふと思い出したときにPC上で手軽に見られる。
当時一緒に旅行に行った友達にメールで送ってあげて、喜ばれたりもする。

スキャンした画質も意外といい。これは1997年10月にプラハで撮ったもの。

 
ネガを見ていて気付いたのは、昔のほうが、一枚一枚の写真を大切に撮っていたということ。
アナログのコンパクトカメラでは、夜景なんかはまともに撮れていないし、再現力という点では今のデジタル一眼レフには敵わない。
でも構図の取り方などは、昔のほうが丁寧だったかもしれない。

今はカメラがなんでもやってくれるので、普通の人でもかなり上手に写真が撮れる。
失敗すれば何度でも取り直せるし、とりあえず5枚撮っておいて、あとでいいのを1枚選ぼう、ということもよくある。だから無駄な写真の枚数も多い。

現像してみるまで出来がわからなかったアナログ時代は、とにかくその時点で「ベストショット」と思えるものを撮り、あとでわくわくしながら出来上がってきた写真を見た。「ボツ」写真の比率はその頃のほうが格段に低かった。

やや大げさに言えば、「本番」にかける緊張感があったのだと思う。

デジタル化はメリットのほうが多いと思っているし、逆行する気は全くないけれど、想い出に残したい風景を丁寧に切り取り、それをハードディスクではなく自分の記憶にとどめておく力は、アナログ時代の人間のほうが優れていたように思う。

2012年9月17日月曜日

今年のハワイ島

今年も7月のほとんどをハワイ島で過ごした。

もう12年ほど前からほぼ毎年行っており、一回あたりの滞在日数は長くなる一方。
よく人には、「そんなに行ってて、飽きない?」と聞かれるが、全く飽きない。
他の場所にはあまりリピートしない私も、ハワイ島だけは別。

でもハワイといえば無条件に好きなわけではなく、私が好きなのはハワイ島(ビッグアイランド)。ハワイ州全体ではない。もちろんほかの島も好きだし、行ったこともあるが、比較にならない。

ハワイ島に2,3週間も滞在していれば、ホノルルあたりに一度は行く気になりそうなものだが、よほどの用事がない限り、行き・帰りの乗り継ぎで空港を素通りするのみ。それも今、直行便がないから仕方なく寄ってる感じ。

だから「ハワイ行ってたの?」などと、きっとホノルルだと思っているに違いない質問をされようものなら、
「そう、ハワイ島ね。」と明確に返すことにしている。

何がそんなにいいかというと、理屈ではなく、多分土地の「気」が合っているから。
ハワイ島はいわゆる「パワースポット」の一つとされているけれど、どんなパワースポットでも必ずいいかというとそうではなく、現に私には、あのアリゾナのセドナに行って全く何も感じなかったという残念な過去がある。

ハワイ島で過ごしていると、自然のリズムの中でリセットされる感じがある。
ほとんどが溶岩大地の島で、朝は鳥の声で目覚め、夜は満点の星を見上げる。

新聞で潮の満ち引きの時間を確認してからビーチに行くと、ちょうど潮が引き切った後、ウミガメが甲羅干しをしていたりする。
お腹を浅瀬の水に浮かせ、甲羅を水面から出している。でも日差しが熱すぎて、時々手で(足で?)背中に水をかけている。
そしてしばらくして潮が満ちてくると、海に帰っていく。

そんな風景、何度見ても飽きないし、また探しに行ってしまう。

今年のハワイ島で気付いたことの一つは、2年ほど前に大ブームだったカイト・サーフィンはあまり見かけなくなり、代わりにパドルボードが大人気。子供から大人まで楽しめるマリンスポーツ。

気付いたことのもう一つは、ここ2、3年ほど「For Sale」の看板が出たままの家がまだ多く残る一方、ずっと空地のまま止まっていた別荘地の開発が動き出していたこと。

市場の活性化はいいことだけど、ウミガメの甲羅干しの場所は、確保されますように。























2012年7月3日火曜日

エスパス・ルイ・ヴィトン「Awakening」

先週末、表参道のエスパス・ルイ・ヴィトンへ。
フィンランドのアーティスト3人のグループ展"Awakening"を開催中です。

入り口でハードカバーの素敵なカタログと、ヘッドホンを渡され、音の世界から鑑賞開始。

初めて外光を遮り暗室にした今回の展示は、星空に見立てた壁に囲まれた空間に、ペッカ・ユルハの大きなクリスタルのビーズのインスタレーションが一層輝きを放ち、印象的。

光ものに心を奪われ、他のビデオアートに入り込めなくなってしまいましたが。

ちょっとした異空間トリップ気分でした。


2012年6月10日日曜日

輝く夜の森 in Shanghai

上海に行くたび必ず訪れるのがMOCA Shanghai(上海現代美術館)。開館時間も21時半に延長され、更に行きやすくなりました。

開催中だった展示は「Van Cleef & Arpels, Timeless Beauty -  Over One Hundred Years of High Jewellery Creation」。ヴァン・クリーフ・アンド・アーペルの100年以上にわたる歴史とジュエリーの名品たちです。

いつもは外光も入り明るいMOCAが一変。入り口を一歩入ると、そこは外界から切り離された夜の森の始まりです。(普段の構造がすぐに思い出せないくらいの変貌ぶり!)

薄暗い森にはガラスの木々やカプセルが並び、その中にはライトアップされ、輝きも一層眩いハイジュエリーの数々が。幻想的な空間に、時間の感覚を失います。
和のモチーフを施した漆塗りの蝶のブローチの群れに見とれていると、虫の声が聞こえてくる・・・このリアルな森の感じ、細かい!

見る前は、コンテンポラリーの美術館でどうしてヴァンクリ?と思いましたが、今回の展覧会のデザインを担当したのは、Patrick JouinとSanjit Mankuという二人組。2011年オープンしたパリのマンダリン・オリエンタルのレストランも手掛けたデザインユニットです。

未来的なセッティングで伝統を語る、美しく興味深い展覧会。2012年7月7日まで開催です。

2012年6月8日金曜日

ラグジュアリー・トラベルの議論で考えたこと

上海で6月4日から7日まで開催されたラグジュアリー・トラベル・マーケット「ILTM Asia」に、今年もバイヤーとして参加しました。ハイエンド市場に特化したBtoBイベントで、昼間はミーティングが隙間なく組まれ、夜は各社が趣向を凝らした華やかなパーティ。常にハイテンションが要求される数日間です。

ここ数年、アジアのラグジュアリー・トラベル市場といえば、イコール中国人富裕層の台頭、という文脈で語られることがほとんどです。インターコンチネンタルホテルグループに至っては、明確に中国人富裕層だけをターゲットにした「Hualuxe」という新ブランドを打ち出すんだとか。

今年のILTMのオープニング・パネルでも、欧米出身のパネリストたちの話は「いかに中国人旅行者の気に入るサービスを提供するか」という流れになっていました。

しかし、この一連の話、私にはうまく言葉にできない違和感がずっと前からありました。

それをスパッと斬ってくれたのが、バンヤン・ツリーの創立者、Ho Kwon Ping氏。

「まあさっきから聞いてれば、やれ中国人だから朝食におかゆを出しましょうとか、中国人だからこうしましょうとか、そういう議論は長い目で見たら何の意味もない。過去にも同じ議論はあった。20世紀半ばに米国人旅行者が増えたときも、ヨーロッパのホテルはメニューにハンバーガーを加えたが、今となってはハンバーガーは世界中どこにでも溢れてる。今の中国は経済的発展が違う段階にあるだけのことで、特別じゃない。どこの国民でも、結局人間であることに変わりないんだ。」
(と、このままの言葉で語ったわけではありませんが、私が解釈して再編集したものですので、あしからず。)

会場、大拍手。欧米人も、アジア人も。
あのパネルで、あれほど観客をひきつけた発言はほかに聞いたことがありません。

そして私が得た結論は、うまく表現できなかった違和感の対象は「上から目線の迎合」だったのだということ。

これは旅行産業に限らず他の産業にも言えることですが、海外市場、特に日本を含むアジアや新興国市場に進出するとき、出ていく側には少なからず「自分たちのほうが進んでるもんね」という驕りがあるものです。

同時に、その市場で受け入れられるために、自分たちの解釈で造ったステレオタイプに対して迎合し、それを異文化理解だと言ったりする。

でも、海外に自国の文化を発信する側にも、そういうステレオタイプを生む責任の一端がないわけではありません。それも一種の迎合。

文化にも、サービスにも、迎合はあってはいけない。そんなことを考えた機会でした。