2013年5月12日日曜日

エクス・アン・プロヴァンスの新建築

エクス・アン・プロヴァンスには、今年秋以降のオープンに向けて建設中の興味深い建物が二つある。

ひとつはコンセルヴァトワールと呼ばれる文化施設。建築家の隈研吾氏の設計で、建設現場からはその外観は伺い知れないが、囲いに掲示された写真と説明によると、「折り紙アート」をモチーフにしたファサードが特徴的らしい。有名な現代建築物がほとんどないエクスにおいて、これは新たな観光資源として注目されるに違いない。


もうひとつは、そのすぐ隣にオープン予定のホテル・ルネッサンス。これまでインターナショナルチェーンの5つ星ホテルがなかったエクスに満を持して登場。建設中のホテルの中に設けられたモデルゲストルームを見せて頂いた。フランス人の女性デザイナーによる内装は、プロヴァンスの文化をモチーフにしながらとてもモダンでスタイリッシュ。館内施設は室内プールやスパを充実させ、エクスの他のホテルと一線を画すほか、プロヴァンスらしさを表現した庭園もできるとのこと。

また楽しみが増えそうなエクス・アン・プロヴァンス。




印象派たちの光と色~エクス・アン・プロヴァンス ②サント・ヴィクトワール山

ポール・セザンヌはサント・ヴィクトワール山の絵を油彩44枚、水彩43枚、計87枚も描いたそうだ。
そこまで画家を魅了した山はどんなところなのか、実際に行った旅行者のレビューも読んでみると、すこぶる高評価。これは行くしかないでしょう。

エクス・アン・プロヴァンスからバスで40分ほどで、山の北側のヴォーヴェンナーグ(Vauvenargues)という町に着く。短い通りの両側に市役所や郵便局、カフェが並ぶだけの、静かなチャーミングな町。

インフォメーションセンターで、もっとも簡単なルートを聞いてから、黄色でマークされた入口を手がかりに歩き始めた。青空の下、様々な花や木々を眺め、鳥の声を聞きながら歩く。しばらく歩いていると、ハイキングというよりトレッキングと呼ぶのが適切な、岩がちな斜面や細い山道が続くようになる。あれ?これって最も簡単なコース?と思っていると、どうやらいつの間にか中上級コースに入ってしまったらしい。どこで間違ったのか、そもそも最初は合っていたのか、さっぱりわからない。

数年前にスイスのツェルマットでハイキングをしたときも、同じようなことがあった。係りの人に教えてもらった方向に歩いたのに、どこかで逸れたのか思った道とは違うところを歩いていて、結局、予定とは別のところから出てきたことがある。決して方向音痴なほうではないし、その時はひとりではなかったのだが、やはり日本の懇切丁寧な地図や表示に慣れているとこういうことが起こるのかもしれない。簡単なハイキングコースでも、地図とコンパスくらいは持って出かけるべきなのだろう。

さて、間違ったことに気付いたところで、戻るのも気が進まないし、それなりに歩けたので、まあいいや、と、そのまま歩き続けることにした。

サント・ヴィクトワール山は、遠くから見ると白い岩の塊のように見えるが、実際はかなり上のほうまで低木や様々な小さな花々が岩がちな斜面に生えている。上に行くに従い風がすごく強くなり、歩くのもままならないほどだったが、そこから間近に見た白い岩肌の崖は実に迫力があり、神々しい感じすらした。サント・ヴィクトワール山ならではの魅力をやっと見たと思った瞬間だった。ここまで来られて良かった!

今回私はかなり軽装で行ってしまったが、本来はしっかりした靴と装備で臨むのが適切なコース。また岩が多いので、雨上がりで地面が濡れているときはやめたほうがいい。

さて、実際に登ったサント・ヴィクトワール山だが、まだ全景を見ていなかった。セザンヌが好んで写生した場所が、セザンヌのアトリエから更にあるいて15分ほどのところにある。そこには世界各地の美術館に収蔵されている彼のサント・ヴィクトワール山の作品の写真が9枚並び、そこからサント・ヴィクトワール山を遠くに臨むことができる。ここから見るとあの木々も花も見えず、白い岩山に戻っている。でも、それこそがセザンヌを惹きつけた神秘性なのかもしれないと、今は思う。

印象派たちの光と色~エクス・アン・プロヴァンス ①セザンヌめぐり

エクス・アン・プロヴァンスに滞在中。

今回は、フランスツアー企画コンテストで入賞した旅の企画を賞品として提供して頂き、自分で実際に廻ってみるミッション。印象派がテーマなので、印象派が誕生した北のノルマンディーから始める予定だったけれど、列車の運休の関係で南のプロヴァンスからスタートすることに。

マルセイユ空港からバスで30分のエクス・アン・プロヴァンスは、ポスト印象派の巨匠ポール・セザンヌが生まれ、生涯のほとんどを過ごした街。

到着してまず目に入るのは、とにかく青い空!日没の夜9時頃まで雲ひとつない快晴が続いた。この気候には、プロヴァンス地方特有のミストラルと呼ばれる乾燥した風が影響しているらしい。確かに日中も風は強く、空気はからっとしている。 

エクスの中心街は歩いて廻れる大きさで、そこにはセザンヌゆかりの地がたくさん残っている。あちこちにある「セザンヌの風景」という看板もそのルートを示している。セザンヌの生家や家族が暮らした家、洗礼を受けた教会、通った学校などなど30以上。それらは大きく表示があるわけではなく、家には別の人が住んでいたり店になっていたりするので、注意深く見ていないとわからないかもしれない。父の帽子屋も今は銀行になっているが、壁面に描かれた看板が当時の面影を残している。

比較的目立つゆかりの地のひとつは、サン=ジャン・ド・マルタ教会(母の葬儀が行われた)。中に入ると美しい大きなステンドグラスが目に入る。ときどき、カメラのレンズを通したり、サングラスをかけたりすることで、肉眼では見えなかった光が見えることがあるが、ここでもそうで、シャッターを切る瞬間、ガラスを通った光の紫の反射が広がっているのが見え、その美しさにはっとした。

そのすぐ隣にあるのがグラネ美術館。ここはセザンヌが通ったデッサン教室が開かれた場所。今はセザンヌの10作品を展示している。中でも「水浴の女たち」はエクスのアトリエで描かれたものだが、そこに描かれた空の色は、エクスの青すぎるほどの空と比べ、とても柔らかいことに意外な印象を受けた。
 
セザンヌめぐりで外せないのは、街の中心から北に15分ほど歩いたところにあるセザンヌのアトリエ。最もセザンヌらしさを感じられる場所かもしれない。木々に囲まれた家の二階にあるアトリエは、画家が当時使っていた様子をそのまま保存・再現している。実際に入ってみて、セザンヌの絵の中の空がなぜあんなに柔らかかったか、わかった気がした。セザンヌが自身で設計したアトリエの大きなこだわりは、壁一面の大きな窓と、木の板張りの床。木々の間をから差し込む光が、現代のものより厚いガラスを通り、さらに木の床で吸収されながら反射して、とても優しい光になったに違いない。

街中のセザンヌポイントを押さえたら、次はセザンヌが80枚以上描いたサント・ヴィクトワール山へ。






2013年5月1日水曜日

ブリーフ・ガーデン

スリランカのベルワラに滞在中、建築家ジェフリー・バワの別荘、ルヌガンガ(Lunuganga)を見に出かけたのだが、4月14日のスリランカのお正月の週だったため、残念ながらお休み。そこで彼の兄で造園家だったベヴィス・バワ(Bevis Bawa)が作ったブリーフ・ガーデン(Brief Garden)に行くことにした。

ベントータから車で20~30分内陸に行き、ブリーフ・ガーデンに到着。受付はなく、門は閉まっている。ここも休みかと思ったが、門の上にある鐘を鳴らしてしばらく待っていると、チケットの束を手にした係の男性がのんびりと出てきた。

中に入ると、熱帯のジャングルのような庭が続く。一見無秩序なようで、よく見ると竹林や灯篭など、アジア各地のオリエンタリズムが上手に融合された庭園であることに気づく。でもそれはあくまでもさりげなくて、自然の森にいるような錯覚を覚えながら歩く。

アンリ・ルソーの絵画に出てくる空想上のジャングルは、ここなら実在しそうな気がする。

庭園を散策した後、係の人の案内でべヴィス自身が住んでいた家を見学。造園がメインだったべヴィスだが、家も彼自身がデザインしたそうだ。

室内にはべヴィス自身の作品も含め、数々のアートやオブジェが飾られているが、最も目を引くのは友人でオーストラリア人の画家が描いたリビングの大きな壁画。スリランカの人々の生活を表現したものらしいが、仏画のような、絵本の挿絵のような、不思議なタッチ。

ここは1954年のハリウッド映画「巨象の道」の撮影にも使われ、主演だったヴィヴィアン・リーがローレンス・オリヴィエと共に訪れた際の写真も飾られていた。(その後、ヴィヴィアンは病気のため降板し、エリザベス・テイラーが代役を務めた。)


見学後、現在のオーナー夫妻がお茶とクッキーでもてなして下さり、色々な話を伺うことができた。ブリーフ・ガーデンは、元々ゴムのプランテーションだった土地をべヴィスが相続し、自身の家と庭園に作り替えたそうだ。造園技術は誰に習ったわけでもなかったというべヴィスは、弟のジェフリーと同様、天性の才能に溢れた人物だったのだろう。両親からヨーロッパやアジアの様々な国の血を受け継いでいたことも、一つの要素だったかもしれない。商売上手な面もあり、イギリス留学中には王族の子息のふりをして上流階級のソサエティに溶け込み、後のビジネスの獲得につなげたらしい。

弟と同様、生涯結婚せず跡取りがいなかったべヴィスは、亡くなった際に弟子に土地を分割して与えた。そのうちの一つが、現在ブリーフ・ガーデンとして公開されている部分だ。

バワ兄弟は日本ではあまり知名度が高くないが、弟のジェフリーは「トロピカル・モダニズム」で知られ、アジアで最も影響力があった建築家の一人。兄のべヴィスのブリーフ・ガーデンにも、建築や造園を学ぶ各国の若者たちが訪れる。


オーナーは、べヴィスが残したこのブリーフ・ガーデンが将来も保護されるよう、ナショナルトラストに託すことを考えていると言っていた。

オーナー夫妻にお礼を言い、ブリーフ・ガーデンを後にした帰り道、タクシーの運転手さんが、あの気さくで温和なオーナーは、べヴィスの一番弟子だった人で、スリランカでも有名な造園家だと教えてくれた。

あの家の脇には、ブラック・リリーと呼ばれる、見たこともない花が咲いていた。一目見たときは生の花であることが信じられなかったくらい、黒い鋼で造られた完璧なコサージュのような外観を持つ。これほど不思議な花を見たことはない。

あの花が咲き続ける限り、バワの理想郷は守られていくような、そんな気がした。

2013年4月30日火曜日

子ウミガメの旅立ち

スリランカに行った際、ウミガメの孵化場を訪れた。

ベントータの近辺では、スリランカで絶滅の危機に瀕していたウミガメを守るため、卵を集めて孵化させてから海に帰すプロジェクトが80年代から行われてきた。

私が訪れた孵化場では、生後3日の赤ちゃんウミガメを、夕暮れ時に海に放す。

これまで大人になったウミガメにしか遭遇したことがなかったため、赤ちゃんでももっと大きいのかと思っていたが、体長は5~6センチ。昔よく売られていたミドリガメとかゼニガメを思い出す。


このあたりの海は夕焼けは美しいが、結構波が高く、泳ぐには躊躇する。

しかし、ウミガメの赤ちゃんたちは、人間の手でひとたび砂の上に置かれると、一目散に海に向かって歩いていく。方角を示さなくても、どちらに行くべきかがわかっているらしい。すごい。

そして海に入っていく・・・というより、波が来てさらわれていく。
・・・大丈夫かな。

でも、生きるべき場所を本能で知っているのだから、きっと大丈夫。

がんばれ!子ガメ。



2013年4月27日土曜日

スリランカのアーユルヴェーダ

10日ほど前、アーユルヴェーダを体験しにスリランカまで行ってきた。

滞在したのは、首都コロンボの空港から車で約2時間半南に行ったベルワラにあるHeritance Ayurveda Maha Gedaraというリゾート。

ゲストは9割以上がドイツ人。毎年リピートする人も多く、2週間程度滞在し体をリセットして帰る。アーユルヴェーダは、本当は1週間以上滞在しないと意味がないと言われるが、今回私は様子見で4日間だけ。短期滞在は受け付けないリゾートもあるが、ここは3泊からのショートプログラムも用意している。

滞在の初めに医師のドーシャチェックを受ける。ドーシャとは体質のこと。脈診、触診、生活習慣や体調・病歴等の問診、体重測定などによって、医師がドーシャを判定する。大きくはヴァータ(風と空)、ピッタ(火と水)、カパ(土と水)の3タイプに分けられる。各ゲストのドーシャと改善点に合わせたトリートメントプログラムが組まれ、薬も処方される。

リゾートでの生活は規則正しい。始まりは朝7時のヨガ。鳥の声や、雨が降りそうなときはカエルの声を聞きながら1時間のセッション。都会のスタジオとは違う爽快さ。その後朝食。

午前中か、昼食後の午後に2時間のトリートメントセッションがある。ハーブオイルを使ったマッサージや、ハーブバス、スチームバスなど、約20のメニューから4つを30分ずつ受ける。30分の中にはリラックスタイムも含まれるため、ひとつのトリートメントは15分から20分くらい。ちょっと物足りないと感じるかもしれない。長期滞在者のほとんどは、オイルを額にたらすシロダーラを受けるが、オイルは施術後4日間ほど置かなくてはならないので、その間、男女とも頭にスカーフを巻いて過ごす。

日中の空き時間は、皆、近くに観光に出かけたり、プールで泳いだりしている。こういう滞在ではのんびり過ごすのが原則なので、部屋にWifiはない(ロビーエリアでは利用可能)。庭には鳥やリスたちが住む美しい森があり、遊歩道を散歩するだけで気持がいい。(実はトリートメントよりこっちのほうがリラックスできた気がする。)

夕方5時から2回目のヨガのクラス。その後の夕食では、レストランの入り口の棚に、各ゲストの名札と、翌日の薬とトリートメントスケジュールが置かれているので、自分の分をピックアップする。

ここではひたすら水を飲むように言われる。冷たい水ではなく、常温の水か白湯を1日1.5リットル以上飲むのが望ましいらしい。部屋には大きなペットボトルが用意されていて、水がなくなったら廊下のあちこちに設置された給水器から汲んでくる。

食事の時も、お酒は当然ない。ウェイターが注ぎに来るのは水かお湯、それに食後のハーブティ。毎食、スープ、サラダ、各種カレーなどが日替わりのビュッフェで並ぶ。料理ごとに各ドーシャの適不適を示す札が置いてあるので、自分のドーシャに合ったものだけを選んで食べる。日本では見ないエキゾチックな野菜も多いが、味付けは上手で日本人の口にも合い、滞在中は飽きずに食べられた。(でも、3食ビュッフェの生活を2週間も続けたら、きれいに盛り付けた料理をサーブしてもらう食事が恋しくなるかもしれない。)

このホテルの最大の魅力ともいえるのはその建築。スリランカの著名な建築家ジェフリー・バワ(Geoffrey Bawa)の手によるもの。南仏を思わせる白壁と赤茶色の屋根の建物が、プルメリアが咲き乱れる庭とプールを囲み、海に面して優雅に、堂々と建っている。屋外の光や風を上手に取り入れた造りで、ロビーの自然をモチーフにしたレリーフも優しい雰囲気を漂わせていた。空間の美しさは、長期滞在であればなおさら重要な要素だが、ここは多くの人が良さを認める建築だと思う。



ホテルとしてのサービス面は、正直なところ、詰めが甘い部分がある。でも誰も悪気がないし、感じが悪いことはないので、むしろ、仕方ないよね、という気持ちになる。

でも、客室係のお兄さんは、タオルで白鳥とさざ波を表現して置いて行った、なかなかのアーティスト!


さて、4日間のアーユルヴェーダ効果は?
さすがに短期間なので、目に見える効果は実感できなかったが、翌日、夜のフライトで1時間しか眠れなかった後でもほとんど疲れなかったのは、ここでのクリーンで規則正しい生活のおかげだろうかと、ちょっと思っている。


2013年4月26日金曜日

"Love is Something You Fall Into" - LOVE展にて

森美術館の「LOVE展 アートにみる愛のかたち」の内覧会を見てきた。六本木ヒルズの10周年記念展で、4月26日からの一般公開に先駆けて行われた。

会場を入るとすぐ、キービジュアルにもなっているジェフ・クーンズの大きな金のハートに迎えられ、ちょっとわくわくする。ポップなコンテンポラリーだけかと思えば、マグリットにダリにロダン、源氏物語絵巻から江戸時代の春画、はては初音ミクまで(これって愛?)、まあ幅広い。「LOVE」を共通テーマにいいとこ取りしたような作品構成で、なかなか見応えがある。各作品に「LOVE」を見出そうとすると、普段はあまり興味を持たないような作品も、結構じっくり見てしまう。

エレベーター付近に大きく掲げられた「Love is Something You Fall Into」(恋とは落ちてしまうもの)というバーバラ・クルーガーの言葉。こういうときは決まって「Love」は「恋」と訳される。それで正しいと思う。日本語の感覚では、恋は落ちるものなのに対し、愛は、ふわっと下から支えてくれるようなイメージのほうが近い。どちらもLoveだし、延長線上にあるものだけど。

余談だが、内覧会後のレセプションでは、スポンサーのニコラ・フィアットのシャンパンがふんだんに振る舞われた。これぞ正しいパーティの姿!泡のないパーティなんて、手を抜かれた気がして、愛を感じられないもの。