ポール・セザンヌはサント・ヴィクトワール山の絵を油彩44枚、水彩43枚、計87枚も描いたそうだ。
そこまで画家を魅了した山はどんなところなのか、実際に行った旅行者のレビューも読んでみると、すこぶる高評価。これは行くしかないでしょう。
インフォメーションセンターで、もっとも簡単なルートを聞いてから、黄色でマークされた入口を手がかりに歩き始めた。青空の下、様々な花や木々を眺め、鳥の声を聞きながら歩く。しばらく歩いていると、ハイキングというよりトレッキングと呼ぶのが適切な、岩がちな斜面や細い山道が続くようになる。あれ?これって最も簡単なコース?と思っていると、どうやらいつの間にか中上級コースに入ってしまったらしい。どこで間違ったのか、そもそも最初は合っていたのか、さっぱりわからない。
数年前にスイスのツェルマットでハイキングをしたときも、同じようなことがあった。係りの人に教えてもらった方向に歩いたのに、どこかで逸れたのか思った道とは違うところを歩いていて、結局、予定とは別のところから出てきたことがある。決して方向音痴なほうではないし、その時はひとりではなかったのだが、やはり日本の懇切丁寧な地図や表示に慣れているとこういうことが起こるのかもしれない。簡単なハイキングコースでも、地図とコンパスくらいは持って出かけるべきなのだろう。
さて、間違ったことに気付いたところで、戻るのも気が進まないし、それなりに歩けたので、まあいいや、と、そのまま歩き続けることにした。
サント・ヴィクトワール山は、遠くから見ると白い岩の塊のように見えるが、実際はかなり上のほうまで低木や様々な小さな花々が岩がちな斜面に生えている。上に行くに従い風がすごく強くなり、歩くのもままならないほどだったが、そこから間近に見た白い岩肌の崖は実に迫力があり、神々しい感じすらした。サント・ヴィクトワール山ならではの魅力をやっと見たと思った瞬間だった。ここまで来られて良かった!