第二次世界大戦の爆撃で崩壊した街を、「コンクリートの父」と呼ばれる建築家オーギュスト・ペレが、1945年から約20年間かけて再建した街並みは、今も街の中心を成している。
碁盤の目を基本とした通りに沿って、屋根が平らなコンクリートの建物が整然と並ぶ。市庁舎の前の広場や、サン・ロシュ広場という公園には花や緑が美しく植えられ、街に彩りを添えている。
1階が店舗になっている集合住宅も、画一的に見えて、実は少しずつ異なるデザインのディテールが施されている。それは今にも通じる普遍的なバランスを保っており、少しも古さを感じない。日本で戦後の同時期に建てられた集合住宅で、現在まで洗練されたモダニティを保ち続けているものは皆無に等しいことを考えると、ペレの業績はただ凄いと思う。
この再建プロジェクトで、ペレが最後に手がけ、彼の死後完成した聖ジョセフ教会は、街のどこからでも見える八角形の高さ107メートルの尖塔を持つ。もともとはペレがパリのために計画し、実現されなかったものそうだ。一見、教会としては地味な印象を受ける。扉が開いていたので、ついでに見るくらいの気持ちで入ってみた。すると、予想もしなかった空間にあっけに取られてしまった。
そこは色彩と光に溢れた部屋だった。
宗教画やイコンの類は一切なく(中央に十字架があるが気付かないくらいのさりげなさ)、色とりどりの四角いガラスが組み合わされたステンドグラスから光が差し込み、それはそれは美しくカラフルでファンタジックな空間。これが教会?
もう夕方6時近くだったが、日没まで3時間以上あり日も高く、その光は全てのガラスから差し込んでるように見えた。外観には全く色彩を感じさせないのに、このギャップもペレが仕組んだものなのだろうか。
ここは大戦の空爆で命を落とした人々の鎮魂の意味も込めて建てられている。宗教を超えた癒しの空間とは、こういうものなのかと思った。
一日街歩きで疲れた帰り道も、その教会を出てからは夢見るような感覚で、足取りも軽くなった気がする。私にとってのパワースポットだったのかもしれない。