2021年6月27日日曜日

資生堂アートハウス

掛川駅の近く、新幹線沿いの細い道にひっそりと建つ資生堂アートハウス。

到着すると、緑の芝生の上で風にそよぐかのようにくるくる回る彫刻が目に入る。動く彫刻の第一人者・伊藤隆道の作。


アートハウスがあるのは資生堂の工場の敷地内。芝生に入れないので、横長の建物の全貌を撮影するのが難しい…。手前の芝生の斜面と一体になった直線部分から、奥の曲線部分に続いていく。外から見ると鏡になっている曲面ガラスは、通る新幹線を美しく映すことを意図したのだそう。谷口吉生と高宮真介の設計で、70年代のモダニズム建築の傑作として日本建築学会賞を受賞している。


中では資生堂が持つアート・コレクションを展示している。入場は無料。

訪問時はヴィンテージ香水瓶の企画展示をやっていた。資生堂は300点近くの香水瓶コレクションを保有しているそうで、今回はその中から1900年代初頭から第二次世界大戦前までのものを中心に70点が展示されている。バカラとラリックが大半を占め、アール・ヌーヴォーからアール・デコにかけての時代の優美なデザインが並ぶ。


一つ一つ、香水の容器などではなく芸術品としか言いようのないボトルを見ていると、香水とは、視覚と嗅覚、更には瓶を手に取った時の触覚にも訴える、稀有な芸術だと思えてくる。もちろんそこで展示されている瓶は視覚でしか感じることが出来ないけれど、例えば1920年代に飛行機での最初の旅行ブームが起こったときのエキゾチシズムをテーマにしたデザインからは、当時の人たちのまだ見ぬ世界への憧れや期待まで伝わってくる。香水瓶は時代の精神さえ映す。




後半はコレクションの彫刻の常設展。建物の中から庭の大型彫刻も鑑賞できる。


見学者は数人いたが、駐車場には車がなかったので、ご近所の方が多いのだろう。地域に愛される美術館は、いいなと思う。

素敵な美術館だった。時にはこだまに乗って、静かにアート鑑賞できるこんな場所を訪れたい。



2021年6月4日金曜日

あかりは軽い イサム・ノグチ展

東京都美術館で開催中の「イサム・ノグチ 発見の道」展を見てきた。

出迎えてくれるのはたくさんの「あかり(Akari)」たち。

和紙で作られた150灯のあかりの、森のようなインスタレーションが、落ち着いたファンタジックさを出す。間違いなくこの展覧会で一番人気の写真撮影スポットだが、はしゃぐのではなく、静かに鑑賞したい気持ちに自然になる。

展示は3フロアにわたり、最初のフロアのテーマは「彫刻の宇宙」。インスタレーションの周りに惑星のように展示された彫刻たちは、ニューヨークのイサム・ノグチ財団・庭園美術館の他、国内の様々な美術館から来ている。

次のフロアは「かろみ(軽み)の世界」。ノグチの中であかりの「light」は軽さの「light」につながっていたことを知り、二つの言葉の重なりに今更ながらハッとする。明るさは軽く、軽いものは明るくしてくれる。なんだかとても腑に落ちる。


ここには、遊園地を作りたかったノグチの真っ赤な「プレイスカルプチュア」と、石や金属のユーモラスな彫刻群が展示され、さながら屋内版「彫刻の森」のよう。多くの作品にとてもユーモラスな名前がついている。たとえば「ジャコメッティの影」とか、「マグリットの石」とか、「宇宙のしみ」、「道化師のような高麗人参」といったものもあり、「あー、なるほどね」と、くすっと納得しながら鑑賞。ノグチのプレイフルな側面を感じる。

最後のフロアは「石の庭」(なぜかこのフロアだけ撮影禁止)。石の彫刻10点が展示され、ほとんどが香川県・牟礼のイサム・ノグチ庭園美術館から出展されている。ニューヨークと往復しながら、牟礼を日本の制作アトリエとしていたノグチの当時の映像も上映されている。

会場にあった年表が広島の原爆慰霊碑のことに触れていた。1951年に丹下健三の招きで広島を訪れたノグチは大きな衝撃を受ける。そして丹下と広島市長の依頼もあり原爆慰霊碑の制作のデザインに没頭しするが、結果的にノグチが提案したデザインは不採用になってしまう。現代ならイサム・ノグチの提案を断ったと知れたら、それこそ大議論が巻き起こるに違いないが、戦後間もなかった当時、アメリカ人であるノグチが原爆慰霊碑を手掛けることに反対の声があったのは仕方がなかったかもしれない。

その実現しなかった原爆慰霊碑のモデルは、ニューヨークのイサム・ノグチ財団・庭園美術館にある。行ける日が来たら、それを見に、そして今回の展示では見られなかった多くのノグチ作品を見に、行ってみたい。

2021年6月2日水曜日

間に合ったモンドリアン展

6月に入り、休業していた都内の多くの美術館が再開。緊急事態宣言中に終わってしまった展覧会もあるが、SOMPO美術館の「モンドリアン展」は、会期終了5日前に再開してくれた。

昨年、独立した新棟に移転・リニューアルオープンしたSOMPO美術館は、高層ビル内にあったときよりもアクセスしやすく、美術館らしくなった。

今回のモンドリアン展では、展示作品70点中の50点がオランダのデン・ハーグ美術館のもの。デン・ハーグ美術館はモンドリアンの作品を300点以上収蔵している。随分前に訪れた際、そこで見たモンドリアンの作品に「こんなのも描いてたんだ」と思った記憶がある。私を含め多くの人が「モンドリアン」と聞いて思い浮かべる、あの、直角に交わる黒い線と、赤・青・黄の原色の絵とはだいぶ違う作品もあった。一生同じ作風だけで通すアーティストなどほとんどいないので、違って当たり前なのだが、そういうのを見ると何か意外な発見をしたようで、名前でしか認識していなかったアーティストの人生に興味が湧いたりする。

SOMPO美術館でも、風景画、印象派の影響、キュビズムなどを経て、「デ・ステイル」を結成、広く知られた「コンポジション」シリーズに到達するまでをほぼ時系列で追っている。コンポジションのシリーズは最後の数点のみで、むしろそれ以外の時代の作品が中心。それがかえって面白かった。

モンドリアンは中心的な位置にいたデ・ステイルを8年で脱退している。なんでもリーダーのテオ・ファン・ドゥースブルフが、垂直・水平の線よりも「斜めの対角線のほうが重要だ」と主張し始め、それがモンドリアンとしては許せなかったらしい。

もし彼のコンポジションに斜めの要素が入っていたら、あのインパクトはなかったかもしれないし、イヴ・サンローランのドレスにもなっていなかったかったかもしれない。

この展覧会は1872年生まれのモンドリアンの「生誕150年目」を記念したもの。「生誕150周年」にあたる来年2022年には、スイスのバイエラー財団美術館で記念の展覧会が予定されている。そちらはモンドリアンがどのように作品を描いたのかとか、作品に込められた意図を探る主旨だそうで、それも面白そう。来年はスイスに行けるようになっていますように。


2021年4月28日水曜日

霧の彫刻とランドスケープミュージアム

霧の彫刻を見に、長野へ行った。

今年4月10日にリニューアルオープンした「長野県立美術館」(旧・長野県信濃美術館)。2017年10月から3年半にわたって休館した後、コンセプトも新しく人々を迎えている。


「ランドスケープ・ミュージアム」として生まれ変わった美術館は、周りの自然と調和しながら、人々が自由に行き来できる屋内外のオープンスペースを充実させ、公園のような存在を目指している。

そのコンセプトに沿ったひとつの目玉が前述の「霧の彫刻」。1970年から世界で霧の作品を作り続けている中谷芙二子氏の最新作。3年ほど前に銀座のメゾン・エルメスフォーラムでの「グリーンランド」展でも霧を発生させていた。お父様の中谷宇吉郎氏は世界で初めて人工雪を作ることに成功した人だそうで、その娘の芙二子氏が人口霧を作っているというのは、なんだか素敵な遺伝子だと思う。

長野県立美術館の霧の彫刻は、時間になると水辺テラスでゆっくり発生し、風に乗って辺りを漂い始める。霧はそのうち、時に滝に近い勢いで噴出し、周りが一切見えなくなるほど真っ白に立ち込めたかと思えば、また晴れてを繰り返す。この「パフォーマンス」はただ外から見るだけでなく、霧の中を歩けるのも魅力。人口の霧と自然の風のコラボレーションに翻弄されながら鑑賞する一種の没入型アート。



美術館は城山公園の中にあり、霧の彫刻は公園を訪れる誰もが見られる。現時点では毎時30分から15分間程度、1日8回披露されている。春の青空の下、あらゆる年代の人が霧に魅了され、楽しんでいた。

本館屋上の「風テラス」もオープンアクセスのスペースで、隣の善光寺と背後の山々を一望できる。景色を眺めるベンチも完備され、気持ちのいい日光浴スポットでもある。

別館の東山魁夷館は建築家・谷口吉生氏の設計で、こちらは2019年にリニューアルオープンした。コレクション展は白い馬のシリーズなど代表的な絵画の他、あまり見たことがないヨーロッパ旅行の際のスケッチもあり、東山魁夷が生きた時代や人生にも興味が湧いた。


本館では、デジタル技術で文化財を再現させた企画展を6月まで開催しているが、「グランドオープン記念展」は8月かららしい。そういえば美術館の周りの土地はまだ工事中なので、今はソフトローンチ期間なのだろうか?(どこにもそうは書いていないけど。)

今後はコレクションを活かした企画展も期待される長野県立美術館。建物の中も外も十分楽しみたい新アートスポットだった。



2021年4月17日土曜日

日常の中の芸術

家からそう遠くないところに「東京しごとセンター」という東京都の施設がある。その前を通るたびに、すべすべした感触が見ただけで伝わってくる、滑らかなラインの大きな石の彫刻を心地よく見ていた。しょっちゅう通る場所なので、それは私の日常の一部となっていた。

ある日、たまたま見たスペインのカナリア諸島の映像で、現地に日本人アーティストの屋外彫刻があることを知った。それは、いつも通る近所のすべすべ石のすぐ後ろにある白いゲート型の作品とよく似ていた。

「あれ?もしかして」 調べてみると、近所にあったその彫刻も、カナリア諸島の彫刻と同じ安田侃(やすだ かん)の作品だと初めてわかった。安田氏は北海道出身で、イタリアをベースに活動している著名な彫刻家。東京ミッドタウンや直島など日本全国各地だけでなく、様々な外国にも作品が飾られている。

近所のすべすべ石と白いゲートは二つとも安田氏のもので、セットで「生思有感」という作品だった。


なんと。これまでずっと知らずにいたのが、なんだかもったいない! ということは、しごとセンターにある他の彫刻も、やはり著名なアーティストの手によるものなのでは…?

もう一つ、金属の球体から空に向かってラインが躍る彫刻も、なかなか素敵だと思っていた。

改めて行ってみて、作家や作品名の表示を探したが、ない(私が見落としているのかもしれないが、その気になって探している人が見つけられないなら、ないも同然)。東京しごとセンターのウェブサイトにも一切情報がない。直接聞いてみようと初めて建物に入ると、入口の吹き抜けの天井にもなんだかすごそうなオブジェがある。この施設は2004年にできたそうだが、当時の東京都には結構潤沢な予算があったのだろうか。

インフォメーションカウンターに座っていらしたおじさんに、「外の彫刻の作者と作品名を知りたいんですが」と聞くと、そんな質問は想定外だったに違いないおじさんは、一瞬キョトンとした後、にこやかに「ああ、どこかに書いてあったかな…」と、卓上にあった書類を少し探してくれたが、「ありませんねえ、ごめんなさい」と言った。

帰ってホームページから問い合わせてみたところ、翌朝には広報担当の方からお返事があった。

前述の金属の彫刻は、伊藤隆道氏の作品「ひかり・空中に」とのこと。資生堂のショーウィンドーデザインを長く手掛け、動く彫刻でも第一人者とも呼ばれる人。ひょっとしてこの作品も動くのだろうか?一度も見たことないが、動いてもおかしくなさそうな雰囲気ではある。(追記: 後日改めて問い合わせたところ、動かないとのことだった。残念。)

建物内の吹き抜けのオブジェは、多田美波氏の「躍」。故人だが、光を反射するステンレスなどの金属やガラスの作品を多く手掛けた女性彫刻家だった。

もう一つ、他の作品に比べるとあまり目立たないが、正面玄関に向かって左側には堀内正和氏の「曲と直」がある。20世紀の彫刻家で、日本の抽象彫刻の先駆者とされる。

こんなに身近にあったアートスポット。その価値をよく知らずに日常の一部になっていたのは贅沢というべきか。パブリックアートは、必ずしも作家や作品名を知ってもらうことが目的ではないし、見た人がいいと思えばそれでいいし、何も知らない住民の日常に溶け込んでいたほうがむしろ意図に沿っているのかもしれない。でも、少しの情報発信があれば、必要な人には届き、結果として作品がもっと生きるのではないかと思った。

私はここを通るのが、以前よりも少しだけ楽しみになるだろう。


2021年4月2日金曜日

肥後細川庭園

春の晴れた日、肥後細川庭園へ。椿山荘や東京カテドラルのすぐ近く。

幕末に肥後熊本の細川家の下屋敷があったところで、大きな池を中心とした典型的な池泉回遊式庭園。戦後は都の土地となり、「新江戸川公園」という、残念ながら庭園の個性が全く想像できない平凡な名前で呼ばれていたが、4年前の2017年春に今の名称になったそう(良かった)。現在は文京区の管理下にあり、無料で公開されていることに懐の深さを感じる。



隣の神田川沿いの桜並木はもうピークを越えていたが、庭園の門を入ると小さな花々が咲き、新緑が美しい。立派な池に映る風景を見て、やはりここは公園ではなく、庭園と呼ぶのがふさわしいと思う。

遊歩道に沿って、池の周りの山を模した斜面を少しだけ上がってみると、台地の湧き水の小さな滝もいくつかあり、郊外の自然の中を歩いているような気分になれる。ふと、どこにいるのかを忘れそうになった。

お勧めは、細川家の学問所だった建物「松聲閣(しょうせいかく)」の2階からの眺め。向うの方にビルが見える以外は、明治時代から変わらぬ庭園全体の風景が見渡せる。

ちょっとしたパワースポットかも?と感じた都内のオアシス。


2021年3月20日土曜日

「Louis Vuitton &」展

3月19日に開幕した「Louis Vuitton &」展。原宿駅からすぐのスペースが、LV一色になっている。


ルイ・ヴィトンとアーティストとのコラボレーションの事例を通じて、ブランドの歴史と世界観を表した展示で、ヴィトンユーザーでなくても行く価値があるアート展。初日の最初の回を見に行った。日時予約制なので混雑もない。


ブランド初期から現代までのアイコニックなプロダクトの数々が、部屋を追ってジャンルごとに展示されている。ヴィトンとアーティストとのコラボは、村上隆あたりからなんとなーく記憶していたが、そんな浅い歴史ではなくアールデコの頃からすでに始まっていた。ヴィトンは早くから時代を取り込んできたことがわかる。ヴィトンが誰とコラボしたかを知ることは、各時代を代表するアーティストが誰だったかを振り返ることにもなり、社会とアートのヒストリーという点でも興味深い。

ザハ・ハティドのモノグラムバッグ

展示の最後のほうの「デジタリー・イン・モーション」は、インタラクティブな遊びのスペース。人が前に立つと、その動きに合わせてグラフィティが映し出される。歌舞伎とモノグラムの競演も楽しい。

しかしやはり印象に残るのは、100年以上前に素敵な旅のためのラゲッジを徹底的に追及していたその精神。折り畳みベッドを収めた1898年の「ベッド・トランク」や、洋服をたたまずにかけられるキャビネットなど、これを持って旅に出られた当時の人たちはどんなに心が躍ったことだろう。もちろん、今の時代には実用的ではないものばかりだが、一部の人たちが享受したこうした「荷造りの楽しみ」は、万人がほぼ同じような荷物で旅行に出かける現代では失われていると思う。

奥がベッド・トランク

どこか遠くへ旅行したいなー、という気分になって展示会場を出ると、特設ギフトショップがある。ここだけの限定商品や、先行販売の新作もあるそう。春らしいカラーに満ちたポップな内装がかわいく、見ていてワクワクする。そして思わず欲しくなる。

見事にヴィトンの世界に取り込まれたイベントだった。