2022年7月12日火曜日
Art Osaka 2022
ブライアン・イーノ展
話題の「Brian Eno Ambient Kyoto」展を見に京都へ。
会場は京都駅から徒歩約5分の京都中央信用金庫・旧厚生センター。築90年というから昭和初期に建てられた3階建てのビル。最近、レトロな建築物をアート展会場として再生している例をよく目にする。雰囲気のある建物は見に行く楽しみを増してくれる。
今回展示されているのはイーノの代表作3つを含む4作品と、会場内で流れるオーディオ作品。今回のように「音と光」をキーワードにしたデジタルアートの展示は多いけれど、イーノ展はオーディオへのこだわりが特に強い。そのため会場内での撮影は、フラッシュはもちろん、シャッター音も禁止。スマホで無音撮影はなかなか難しいが、iPhoneのLive Photosモードの「ピコッ」という小さな音は見逃してくれていた。
展示は3階から順番に鑑賞。最初は「The Ship」というサウンド中心のインスタレーション。複数のスピーカーからの出る様々な音の不協和音。心地良くはない。「傲慢さとパラノイアの間を揺れ動き続ける人間のコンセプトの出発点とした作品」だそうで…メッセージが深すぎる。何を感じるかはその人次第。
次は新作「Face to Face」。スクリーンに3つの人の顔が映し出され、それぞれ実にゆっくりと違う顔に変わっていく。男性から女性へ。子供から老人へ。じっと見ているとどこが変わっているのかわからないのに、5秒くらい目を離して戻すと結構変わっている。
2階から下はちょっとトーンが変わり、まさに色と音の世界になる。「Light Boxes」という作品では、パターンが異なる3つの光の箱が壁沿いに並び、それぞれ違う色に変化していく。
今回のインスタレーションは京都を意識してか、竹林(ではなく明らかに木だけど)の中に三角錐型に積まれた砂が清め塩を思わせる。この清め塩も色を変える。
イーノが最初に「77 Million Paintings」を発表して以降、「音と光のアート」に関する技術はもっとすごいものが出てきているし、没入型アートという言葉も普通に聞かれるようになった。でもあえて没入型というワードを使わずアンビエントを貫くイーノの作品は、スペクタクルではなく、鑑賞者を取り巻く環境として、鑑賞者に受け止め方を委ねたのアートの形だと思う。
これを書きながら今更ではあるが、イーノのアンビエント・ミュージックを聴いてみた。もう少し聴いてみたいと思った。
(Brian Eno Ambient Kyoto展は2022年8月21日まで。)
2022年6月1日水曜日
霧島アートの森
鹿児島県にある「霧島アートの森」へ。
鹿児島空港から車で約40分、公共交通機関で行くなら電車やバスやタクシーを乗り継ぐ必要があり、旅行者にとっては決してアクセスがいいところではない。でもそのために旅する価値が十分ある場所だった。
霧島アートの森は県立の美術館でオープンは2000年。公立美術館としては比較的新しい方かもしれない。屋内所蔵作品は20世紀以降の国内外の著名アーティストの名前が並び、その多くが大型の彫刻作品。定期的にコレクション展と企画展をやっているが、むしろコレクション展の時期を狙っていくのもいいと思う。
屋内展示もさることながら、ここの最大の魅力はその名の通り屋外に拡がるアートの森。栗野岳の麓の豊かな自然の中でアートを楽しめる。高原とはいえ木々には南国らしい緑の濃さと深さがあり、その雰囲気もたまらなく良い。
野外展示作品は各作家がこの地を訪れて作成したオリジナルばかり。霧島の自然から受けたインスピレーションがそれぞれの形で表現されている。
樹林ゾーンでは地図を片手に作品を探しながら歩く。ちょっとオリエンテーリング気分。木々の間から忽然と現れる作品にはタイトルだけで説明はなく、見る者の想像に任せられる。(いちおう解説の小冊子も用意されているが、それは後で作品を思い出しながら読んだほうがいい。)人によるかもしれないが、自然環境の中で見るアートは、その意味を考えるより先に風景として捉える。個々の作品の好き嫌いは置いても、風景として調和しているか、していないかの第一印象はとても重要なものだと思う。霧島アートの森の作品は、ほとんどがそこに上手に存在していた。
「溶け込む」ことを突き詰めた作品はアントニー・ゴームリーの「インサイダー」。これ、その場に行ってもよく見ないとどこにあるかわからない。昆虫の擬態のようだと思った。
自然環境と一体化した作品で知られ、昨年(2021年)5月に亡くなったダニ・カラヴァンの「べレシート(初めに )」。スリットから光が差し込む暗いトンネルの先端まで行くと、高台から見下ろすパノラマ風景が開け、森の中だけで閉じていた視点が変わる。
2022年5月31日火曜日
和束の茶畑ウォーク
日本人にとって5月といえば新茶の季節! 宇治茶の主産地・和束町のお茶畑を見に行った。
京都府南部にある和束町のお茶栽培の歴史は鎌倉時代に遡り、その茶畑景観は文化庁認定日本遺産に選ばれている。和束町は「日本の最も美しい村」連合にも加盟していて、とにかく美しいビジュアルを誇る茶畑なのだ。
京都駅からJRで約1時間、加茂駅で降り、バスに乗って約10分(このバス、1時間に1本しかないので事前によく確認を)。和束高橋というバス停で降りた。他に降りる人もなく、ここでいいの?と思いながら静かな坂道を上がっていくと、景観ポイントをを示す案内看板があった。親切!
約10分で「石寺の茶畑」に到着。深い緑色の茶畑が美しい!
川沿いに直立した花崗岩に掘られた摩崖仏は身長3メートル以上もある。1300年4月の銘があり、700年以上もこの地を見守ってきた存在。
更に雑木林を歩き「和束茶カフェ」に到着。カフェというより土産店兼案内所。一般的にはここを散策のスタート地点にするらしい(私はゴール地点にした)。歩いている間はほとんど人に会わなかったのに、ここだけはシニア層のツアー客で賑わっていた。
「和束茶カフェ」を和束町の真ん中として西半分のコースをややハイペースで一方通行で歩き、かかった時間は1時間強。近くの「和束山の家」バス停から駅に戻った。
そういえば、お茶を見ただけで飲んでいなかった。京都駅で新幹線に乗る前、お茶のペットボトルを買おうと探したが、置いてあるのはなぜか「静岡茶」ばかり。そうか、ここはJR東海だった…。和束のお茶は和束で飲んでおきましょう!
2022年5月30日月曜日
夕暮れの無鄰菴
5月中旬の夕刻、京都の南禅寺近くにある庭園「無鄰菴(むりんあん)」に伺った。
無鄰菴は政治家・山縣有朋が1896年に造らせた別邸で、日露戦争開戦前に山縣が伊藤博文などと会議をした場所としても知られる。歴史的背景はさておき、純粋に庭園として素晴らしい。
作庭は七代目小川治兵衛。山縣のオーダーは「東山の山並みを眺めるための庭」だったそう。あくまでメインは東山の借景。治兵衛が応えて作ったのは、東山の風景と一体化した見事な自然の再現だった。それまで主流だった枯山水のような見立てとは一線を画した、琵琶湖疏水を引いたせせらぎが流れる里山のような庭。以降、これを自身のスタイルとして確立した治兵衛は、南禅寺界隈の別荘地で多くの近代的日本庭園を手掛ける。
無鄰菴は閉園後の時間帯はプライベート利用に提供されている。日没が遅い今の時期は、昼間の明るさから次第に暮れゆく空の下で移り行く庭園の表情と、やがてライトアップされた夜の庭園を楽しめる。
山縣の庭園としては東京の椿山荘も有名。椿山荘はあまりに広大で、雲海でも発生させたくなる気持ちもわかる。無鄰菴は軽く散策して一周できる大きさ。雲海はないけれど、日没後、琵琶湖の水に導かれたように野生のホタルが飛んでいた。
2022年4月29日金曜日
アルテピアッツァ美唄
新千歳空港から電車で約1時間半、北海道の美唄市へ。かつて炭鉱の町として栄えた美唄には美しくエンターテイニングなアートパークがある。
「アルテピアッツァ美唄」は、美唄出身で現在はイタリアを拠点に活動する彫刻家・安田侃が、廃校になった小学校の跡地を再生した美術館。
安田氏の作品は、都内でも東京国際フォーラムなどあちこちで見られる。なめらかなラインの大理石の大きな彫刻は、ビルに囲まれた都会の慌ただしさにも我関せずといった感じで、すべすべと泰然としている。そんな作品たちは自然の中ではどんな風にしているのだろう?
アルテピアッツァ美唄には、広い敷地に校舎と体育館だった二つの建物が残り、その内外に合計40点ほどの安田氏の作品が展示されている。ここにはいくつかの魅力的な要素がある。
要素1)絵になるシュールな風景
何といっても自然と、その中にある作品の数々が美しい!
要素2)宝探し
彫刻の立場から言うならかくれんぼ。起伏がある土地は一目で見渡すことはできず、地図を見ながら作品を探して歩くが、それでも見落とすこともある(実際、帰ってからひとつ見逃していたことに気付いた)。
閉園寸前だった幼稚園がまだここにあった1980年代、安田氏は子供たちが喜ぶ広場を作ろうと、作品を一つ一つ増やしていったという。だからきっと子供たちが探す楽しみも意識していただろう。林の中にひっそりといる彫刻は、見つけてもらうのを待っていたようにも見える。都会で見せるクールさに対し、ここの作品は人懐っこい(気がする)。
要素3)自然散策
もちろん北海道の自然を除いては語れない。アップダウンがあり舗装されていないところを歩くので、スニーカーなどの靴で行くことが必須。ちょっと草むらに入ると「熊生息地」の看板が。え!ここで熊!?と、ちょっとひるむが、すぐ先に見える作品を目指して、わざと足音を大きくたてながら歩いて行く。自然の中での危機管理は忘れずに。
要素4)レトロな建築
炭鉱時代の遺産の古い体育館を使ったアートスペースと、校舎だったギャラリーは、いずれもいい味を出している。ちょうどギャラリーでは安田氏の1970年代のシルクスクリーンの企画展をしていた。自身の彫刻作品の形に色をつけたもの。あまり目にすることはない貴重な機会だった。
訪れたのは4月の終わり。アルテピアッツァにはまだ一部雪が残っていて、桜はこれからだった。日本は広い。
美唄は今ではアスパラや米を作る農家が多いとタクシーの運転手さんが言っていた。運転手さんは「田舎でしょう?」と言ったが、こんな素敵なアートパークがある場所は、日本全国でもそう多くはないと思う。
2022年3月15日火曜日
Vison 三重に生まれた「美しい村」
三重県多気町の話題の最新リゾート施設、Vison(ヴィソン)を訪れた。
伊勢神宮から車で30分弱のところにできた「美しい村(=びそん)」は、地域活性化の一大プロジェクト。山を切り開いた広大な敷地に、真新しいホテル、お店、レストラン、マルシェ、温浴施設、農園などが入る。
注目のコンセプトは「サン・セバスチャンの食」。サン・セバスチャンはバラエティ豊かなピンチョスが並ぶバルがひしめき合い、ミシュラン星付きレストランの数は人口比で世界一という、スペイン・バスク地方の美食の街。Vison内の「サン・セバスチャン通り」と名付けられたエリアには現地から誘致したバルが3軒。ホテル内にもファイン・ダイニングのバスクレストランがある。でもサン・セバスチャンをそのまま輸入しましょうというのではなく、三重県の豊富な海と山の食材を活かし、ここならではの日本のバスク料理を目指しているのがいい。元祖サン・セバスチャンの夜ほどの賑やかさはないけれど。
食に関連した他のエリアには、地元の新鮮な野菜や海産物を売る市場「マルシェヴィソン」や、苺の栽培ハウスを併設した「スウィーツヴィレッジ」、そして「和ヴィソン」がある。和ヴィソンには鰹節、昆布、味噌、醤油、みりん、酢といった和食に欠かせない基本アイテムの専門店が集まる。製造工程を見せるお店もあり、ちょっとした和食テーマパークみたい。
Visonは県内や東海・近畿地方から来る人が大半で、平日でもカップルや家族連れが多かった。正直なところ東京からはアクセスがいいとは言い難く、どうやって行っても片道5時間程度はかかる。それでも東京を含む全国から人が訪れていると聞く。
産官学連携のスマートシティ構想の中核としても注目されるVisonでは、医療・健康やモビリティも重要な要素。お勧めは温浴施設「本草湯」。多気町は昔から薬草の町として知られていたそうで、ここでは三重大学とロート製薬が連携して開発したという、聞くだけで効能ありそうな薬草湯に入れる。露天風呂も気持ちがいい!七十二候に合わせたレシピが約5日ごとに変わり、行ったときは海藻とタンポポのお湯だった。トリートメントを受けられるスパも併設されているので、のんびりと半日過ごしてもいいかも。
リゾート施設としての商業的成功だけでなく、長期ビジョンでの地方創生を目指しているVison。自動運転、地域通貨、遠隔医療などの構想も進む。まだピカピカ感がまぶしい建物やホテルが小慣れてきた頃、最先端の「美村」は更に楽しく住みやすい場所になっているに違いない。