2022年10月26日水曜日

ヴェネト州の旅② パッラーディオ建築の街ヴィチェンツァ

初めてなのにどこかで見たことがある建物。ヴィチェンツァの「ラ・ロトンダ」からはそういう印象を受けるかもしれない。

北イタリアのヴィチェンツァは、ヴェネチアから電車で最短約45分、ヴェローナから同約25分、フレスコ画で有名なパドヴァからはわずか15分でアクセスできる。そこに残る16世紀の建築家アンドレア・パッラーディオの建築は「ヴィチェンツァ市街とヴェネト地方のパッラーディオのヴィッラ」として世界遺産に登録されている。

パッラーディオは1508年にパドヴァで生まれ、10代後半から生涯のほとんどをヴィチェンツァで過ごした。ヴィチェンツァでは彼の建築家としての初期の作品から最後の作品までが見られる。

冒頭で述べたラ・ロトンダは、建築家として脂がのったパッラーディオ50代後半の作品。街の中心からは外れるが、ヴィチェンツァ駅からバスで10分程度で行ける(週末のみ公開)。個人の邸宅として建てられたラ・ロトンダは周りの自然と建物との調和も美しい。

ラ・ロトンダはローマのパンテオンに影響を受けている。そしてラ・ロトンダを含むパッラーディオ建築は世界中の様々な建築にインスピレーションを与えてきた。アメリカのホワイトハウスもその一つ。なのでほとんどの人がどこかで一つくらいはその流れを汲む建物を(写真だけでも)見たことがあるはず。

ラ・ロトンダの堂々として均整がとれた姿は、建築家でなくても「お手本」と呼びたくなる。4面にファサードがあるのが特徴で、どこから見ても正面のようなスキがない造り。でも4面が全く同じなわけではなく、パッラーディオは各面が周りの風景と調和するよう微妙に調整したらしい。

一方室内は、左右均等な外面とは対照的に、著名な画家に描かせた優美なフレスコ画で埋め尽くされている。


市内中心のシニョーリ広場に面した「バシリカ・パッラディアーナ」は、パッラーディオの出世作。15世紀に建てられた建物の改修案として、まだ30代だったパッラーディオはアーチと柱を組み合わせた開口部を持つロッジア(開廊)を設けることを提案。後に「パッラーディアン・ウィンドウ」と呼ばれるこの様式が用いられた最初の例だった。このバシリカをきっかけにパッラーディオは、北イタリアのトップクラスの建築家の仲間入りをした。

バシリカは公会堂として利用されており、訪れた日は1階のホールでは地元の子供向けのワークショップをやっていた。

運良くバシリカ最上階のテラスに出られる日で、そこからの時計台やシニョール広場の眺めも素晴らしかった。ヨーロッパの街には必ずと言っていいほど美しい広場があり、地元の人々で賑わっている。



パッラーディオの生涯最後の作品は1580年に着工した「テアトロ・オリンピコ」。世界初の屋内劇場。実はここもラ・ロトンダも、パッラーディオは完成前に亡くなっており、その跡を継いだのがヴィンチェンツォ・スカモッツィ。テアトロ・オリンピコの遠近法を使った舞台背景はスカモッツィの手によるもので、これが劇場をより魅力的にしている。舞台の奥には広い街が続いているような錯覚を起こさせ、スケールを大きく感じさせる。




もうひとつ、番外編的なお勧めは「パッラーディオ・ミュージアム」。テアトロ・オリンピコのチケットを買う際、「2か所以上行くならこれがお得よ!」と受付の人に勧められるままに市内の観光地4か所に入場できる共通券を買ったので、「ついで」のつもりで入ってみた。そうしたらこれが結構面白い! 8つの展示室は「石の部屋」、「絹の部屋」、「ヴェネチアの部屋」など材料やテーマ別に分かれていて、パッラーディオ建築に関する最新の研究成果を、模型を含むマルチメディアで展示。


あちこちの部屋で見かける「壁に浮かぶおじさん」たちもいい。大学教授などの専門家が白い壁にプロジェクターで投影され、ひとりで延々と説明をしている姿がけなげでユーモラス。



ヴィチェンツァ市内には他にもパラッツォ・キエリカーティ(市民絵画館)や、サンタ・コロナ教会(ベリーニの絵画「キリストの洗礼」もある)のヴァルマナラ礼拝堂などのパッラーディオ建築がある。是非、ヴィチェンツァで一日パッラーディアン・ウォークを。


2022年10月23日日曜日

ヴェネト州の旅① 駆け足でめぐるパドヴァのフレスコ画

イタリア・ヴェネト州の都市パドヴァ。紀元前に成立した北イタリア最古の都市のひとつとされる。14世紀のフレスコ画群で知られ、2021年に8か所がユネスコ世界遺産に指定された。パドヴァのフレスコ画は色鮮やかで写真映えもするので、宗教画としてだけでなくビジュアルアートとして楽しめる。中でも有名なのはルネサンスの礎を築いたとされるジョットの「ユダの接吻」。美術史の本でもよく見かける。

パドヴァはヴェネチア島のサンタ・ルーチア駅から直行電車で最短27分、本土側のメストレ駅からは同15分というアクセスの良さ故、日帰りで訪れる人も多い。しかしフレスコ画だけでも全て網羅するには一日では足りず、それ以外にも、やはり世界遺産に指定された世界最古の植物園もあり、本来は一泊以上滞在してじっくり見たい街。「駆け足でめぐろう」などと都合がいいことを考えてはいけない。

・・・とはいえ限られた旅のスケジュール。どうしても時間が足りない時のため、パドヴァの世界遺産のフレスコ画群の中で特に見るべきはこれ!というものを極めて主観的に選んでみる。


1.スクロヴェーニ礼拝堂(The Scrovegni Chapel)

ここは外せない。礼拝堂内部の全面を飾る壁画はジョット・ディ・ボンドーネの代表作で、1304年から05年にかけて制作された。平面的で無表情な絵が当たり前だった当時、ジョットの奥行きの表現や人間らしい表情は革命をもたらし、その後のルネサンスにつながったとされる。


見学は前日までに予約が必要で、ひと枠の人数は20名程度、見学時間はわずか15分間。この制限時間は結構な緊張感がある。まず入口でバッグをクロークに預けるよう言われるが、カメラや携帯電話の持ち込みや撮影はOKなので、取り出すのを忘れずに。予約時間になると、まず礼拝堂の脇に作られたガラスの建物の中に案内される。そこで15分間、フレスコ画の説明のビデオを見ながら待機するが、ただ前の人が終わるのを待っているわけではなく、この建物で過ごす時間は壁画の保存にとても重要な役割を果たしている。礼拝堂の中と外の空気を分離し、壁画に有害なガスや物質が礼拝堂内に入らないよう、ガラス室内の空気を(見学者ごと)浄化しているのだ。15分経過し、空気が落ち着いたところで礼拝堂内に通される。

さて、ここからが15分間のカウントダウン。一歩入ってその美しさに気持ちが高揚するが、立ち止まっている暇はない。入口から見て一番奥の壁が最後の審判。左右の壁が聖母マリアとキリストの生涯。天井はブルーの星空にキリストや聖母子のアイコンが描かれている。「ユダの接吻」は窓があるほうの左の壁の真ん中あたりにある。




最下段には善と悪を表した絵が並ぶ。大理石のように見えるのは実はだまし絵で、これもジョットの革新的な試みの一つらしい。といった内容をその場で把握するのは、よほど宗教画に精通した人でないと無理なので、何が描かれているかを事前にある程度予習していったほうがいい。気持ちのゆとりが15分間の鑑賞満足度を左右する。その一方で、何の予備知識がなくても感動できる空間でもあると思う。



2.パドヴァ大聖堂洗礼堂(The Cathedral Baptistery)


圧倒的なフレスコ・スペクタクル。スクロヴェーニ礼拝堂に影響を受けたジュスト・デ・メナブオイが1375年から78年に描いたフレスコ画は、ジョットの遠近法を更に進めてイリュージョン効果を発揮している。

限られた空間に新約聖書と旧約聖書の物語がぎっしり凝縮され、空白ひとつ残っていない。天井のドームは天国を表し、中央に天使や聖人たちに囲まれ聖書を手にしたキリストが、その下に聖母マリアが描かれている。

こちらが壁画を見つめるというより、四方八方から壁画に見つめられているようで、吸い込まれそう、というより呑み込まれそうな感じがする。現代人でも例えばチームラボを初めて見たらかなり驚くが、14世紀の人々がこの空間に身を置いた当時の驚きは、そんなレベルをはるかに超えていただろう。

見学は30分ごとに時間枠が区切られ、土日は要予約(空きがあれば当日でも入れるようだった)。ここも最初に前室で概要ビデオを見て、音声はビデオにシンクロしたイヤホンガイドで聞く。洗礼堂に入ってからもこの音声ガイドが続き、説明に該当する壁に照明が当たり、「次にこちらをご覧ください」と順に解説してくれるので見落としがない。


3.ラジョーネ宮(Palazzo della Ragione)

パドヴァ大聖堂から徒歩5分。1階部分は12世紀の完成当時から市場として利用され、800年が経った今もヨーロッパ最古の市場として賑わっている。

フレスコ画はかつて裁判所だった2階の「Great Hall」にある。階段を上がったところの回廊も美しい。

大きな体育館のようなホールは80×27メートル、天井高40m。現存する中世のホールでは最大級で、大きな壁面を埋め尽くすフレスコ画もまた圧巻。ここのフレスコ画の特徴は宗教画ではないことで、占星術や人々の生活などがモチーフになっている。動物の絵はここで開かれた様々な裁判のシンボルを表している。最初のフレスコ画はジョットが手掛けたが、1420年の火事で焼失してしまい、後の芸術家たちがジョットの作風をリスペクトして描き直した。中世の占星術のフレスコ画で残っているものは稀とのことで、その点でも興味深い。



4.サンタントニオ大聖堂

パドヴァの聖人・聖アントニオの聖遺物が保管されており、世界から多くの巡礼者が訪れる。ジョット、メナブオイ、ジョットの弟子のアルティキエーロなどのフレスコ画のほか、ドナテッロの彫刻もある。朝早くから開いているので、ここから見学を始めれば時間を有効に使える。内部は撮影禁止。

順路に従って歩いていくと聖アントニオの墓があり、順番にそれに触ることができる。聖アントニオといえば地元の人にとっては氏神様のような存在。旅行者としては何を祈ればいいのだろう?と考えながら自分の番になり、イタリアに到着したばかりだったので、頭に浮かんだ旅の安全を祈った。

聖堂を出た後、ああいうとき大人の旅行者としては、世界平和とかもっと利他的なことを祈るべきだっただろうか、などと一人で反省。


でも帰国してから思い返し、とても良い旅となったのは聖アントニオの恩恵だったかも、と改めて思っている。



2022年9月17日土曜日

ナショナル・ギャラリー・シンガポール

コロナ後、初めての海外はシンガポールへ。

事前にシンガポール入国情報や健康情報をオンラインで入力したり、ワクチン接種証明書をアップロードしたりと、色々やることは増えている。日本に帰国する前のPCR検査が直前で不要になったのにはだいぶホッとしたが、パスポート以外にスマホやアプリがないと海外旅行できない仕組みに変わったのは確か。でも2000年代に突然、液体はジッパー付きプラスチックバッグに入れないと機内持ち込み不可、という不便極まりないルールができたときさえ、皆ちゃんと対応したことを考えれば、今回の変化など軽く乗り越えられるに違いない。ちょっとした面倒など、旅の魅力には勝てないのだから。

さて、今回の滞在の主目的は商談会参加で、街歩きの時間は限られていたため、ナショナル・ギャラリー・シンガポールへ。前にも行ったことがあるが、建物の雰囲気がいい。


1920ー30年代に建てられたかつての最高裁判所と市庁舎の建物で、日本軍占領下では本部が置かれた歴史もある。それをリノベーションして2015年にナショナル・ギャラリー・シンガポールとしてオープン。クラシックな建物に、ガラスの天井や、木が伸びているような柱を組み合わせた現代的な空間になっている。

収蔵作品の中心は19世紀以降の東南アジアアートだが、無料で見られるスペースには今はアントニー・ゴームリーの作品が展示されている、というか倒れている。ゴームリーの顔がない人間の彫刻はたいてい、無関心を装いつつ注目されたい人というオーラを出していて、ちょっと笑える。


屋上庭園にもゴームリーの別の作品が。オープン以来、この屋上庭園の5つ目のコミッション作品。


旧裁判所側のウィングには、かつては屋根に隠れて見えなかった第二のドームが美しく姿を現している。

今回は行けなかったが、ナショナル・ギャラリー・シンガポール内にはカジュアルからファインダイニングまで、レストランも充実している。夕方から深夜まで営業しているバーがあるのも国立美術館らしくなくていい。


話は逸れるが、シンガポールでは現金を使う機会がほとんどない。MRT(地下鉄)もタッチ決済に対応した日本のクレジットカード(VisaかMaster)を「ピッ」と改札でかざすだけで通れる。これ便利!(実はこれを体験したいがためにMRTに乗ってみた。)旅行者もいちいち切符やプリペイドカードを買う必要がないのは画期的。さらに「SimplyGo」というアプリにそのクレジットカードを登録しておくと、乗車履歴と料金も表示される。クレジットカードでの乗車は日本でも福岡で実証実験をしていると聞いたので、どんどん普及してくれることを願う。

シンガポールの街中では半分くらいの人がマスクをしているが、活気は以前の通りのように見えた。夜景も健在。そして旅行のしやすさはどんどん進んでいる。




2022年7月20日水曜日

幸せの機能を持つ建築

昨年、ある建造物の写真を一目見て「うわあ、行きたい!」と思った。正確には写真ではなく完成イメージ図で、宙に浮かんだ王冠のようなそれは、深い峡谷で橋の役割をしているようでもあり、一瞬にして心をつかんだ。以来、それをデザインした建築家ミケーレ・デ・ルッキ氏の展覧会を心待ちにしていた。

展覧会はコロナで何度も延期になり、今月ようやく開幕。それに合わせてミケーレ氏が来日しトークセッションが開催されるという。これは何としてでも行かねば!

ということで神戸へ。展覧会に行く前にまず「六甲山サイレンスリゾート」を訪れた。

六甲山サイレンスリゾートは、近代産業化遺産に指定された旧・六甲山ホテルの建物を修復・再生した現在も進行中のプロジェクトで、ミケーレ氏が主導する。

空気は少しひんやりし、静かで、鳥のさえずりが聞こえる。セミが鳴いて蒸し暑かった山の下とは対照的。建物の周囲にはきれいに花が植えられている。

ミケーレ氏は、80年代に一世を風靡したデザイン集団「メンフィス」の中心メンバーの一人として知られる。メンフィスのプロダクトは鮮やかな色や幾何学的な図形を使ったポップなデザインが特徴で、プラスチックなどの人工素材も多く使われた。その後は脱プラスチックに転換し、現在ミケーレ氏は自然との共存や環境保護の重要性を唱え、木材中心の建築を手掛けている。

六甲山での修復においても、元のスイスコテージ風のクラシカルな建物を残し、新建材と組み合わせ見事に再生させた。2階のカフェの天井には六甲山ホテル開業当時からのステンドグラスが残る。


1階のヒストリー・ギャラリーには、六甲山ホテルの歴史と、ミケーレ氏による再生プロジェクトのこれまでと未来が展示されている。今はまだないリング型のホテル棟の完成予想図もあった。ホテルの開業は2025年頃を予定しているらしい。

ミケーレ氏はその日のトークセッションで、六甲山の自然環境の素晴らしさにも触れ、ホテル棟を円形にデザインした理由は六甲の森とつながるためだと説明した。円には正面も裏側もなく、時の流れやつながりを象徴する。

デザイン・クリエイティブセンター神戸(Kiito)で開催されている「Earth Stations」展は、地球のサステナブルな未来に向けた建築の役割を考察する、ミケーレ氏のリサーチプロジェクトを紹介する企画。完全版の展示は世界初だそう(日本を選んでくれてありがとう!)

最初に述べた王冠型の建造物の正体は「クラウン・ステーション」といって、「過去と未来の中間にあるライブラリ」だとわかった。人間関係のクオリティを潤滑にする機能を持つ、相互交流の場としての建築だそう。

目を引く美しい建築デザインが並ぶプロジェクトは、見かけの奇抜さだけを狙っているのではない。それぞれの説明を読むと、環境保全、伝統文化の継承、教育、人と人とのつながりなど、人を幸せにする建築としての機能を追求していることがわかる。

トークセッションでミケーレ氏は、私は人々が求めているもの、向かっている先をデザインしている、と話した。貧しい土地に、土地の素材や伝統文化を活かした美しいモニュメントを建てることで、住む人がモニュメントを誇りに思い、更にそれを見に世界から人が訪れるという、建築が生む効果についても触れた。建築で住む人も旅人も幸せになる。素晴らしい循環だと思う。

またコロナ禍や戦争に直面する世界の現状について、「人間社会から悪がなくなることはなくても、コントロールしなくてはならない。問題の中でより良く生きていくための空間を作ることが建築家の役目だ」という発言が印象的だった。

一日を通してミケーレ氏の作品やお話に触れ、彼は自分の名を冠したモニュメントを残したいのではなく、そのモニュメントが土にかえった後も続く循環やつながりの概念を次の世代に受け継いでいきたいのだと理解した。

未来の人類の幸せのため、建築が果たせる役割、そして建築家以外の人々が建築とどう関わっていけるかについて思いを巡らせた一日。

Earth Stationsのモニュメントが世界各地に完成し、それを巡る旅を計画することを今から楽しみに思っている。


2022年7月12日火曜日

Art Osaka 2022

週末、現代美術のアートフェア「Art Osaka 2022」を訪れた。

東京在住者にはアートフェア東京のほうが身近だけど、Art Osakaは今年で20回目。今あるアートフェアでは最も歴史が長い。出展ギャラリーは東京からが最も多かった。

フェアは二つのセクションに分かれ、古い造船所跡を会場にした「Expanded Section(拡大セクション)」のほうは、大型インスタレーションが中心。

4階は広いフロアを丸ごと使った横溝美由紀の作品展示。この人の作品でここまで大きなものは見たことがなかった。


3階では大西康明のインスタレーションが目を引く。花を表現しているのかと思ったら、銅箔で河原の石を型取ったものだった。


2階では、「ビッグフット」が淡々とパフォーマンスをしていた。足の裏に絵具をつけ、天井から吊るされたロープにつかまり勢いよく滑ってペインティング。


アートフェアは夜までやっているけど、この人、休憩の時はいったいどうやって出ていくんだろう。ペイントがついたままの足では歩いていけないし、かといって、ここでおもむろに着ぐるみを脱いでいくんだろうか…? 見届けるほどの時間もなかったので、謎のまま後にした。

次は「Gallery Section(ギャラリーセクション)」を見に、中之島の大阪市中央公会堂へ。1918年竣工のネオルネッサンス様式の建物。


内部も天井画にステンドグラスの華麗な装飾…。やや大げさ感も否めないが、それも含めて楽しむ。

アートフェアではたいてい、買い物よりも、自分がいいなと思うギャラリーやアーティストを見つける機会として鑑賞に徹することにしている。さすが20年の歴史を持つフェアだけのことはあり、選りすぐりのギャラリーが集まっている印象だった。


見るだけでも充実した内容だったが、ほかの作品も見てみたいアーティストや、改めて訪れたいギャラリーもいくつかあった。次のアクションにつながるのもアートフェアの最大の収穫のひとつ。

さて、建物の話に戻すと、大阪市中央公会堂のすぐ隣にある中之島図書館も堂々たる外観。


中央公会堂の展示室には、付近には明治から大正時代に建てられた「大大阪時代」を象徴する華麗な近代建築が数多く残る旨の説明があった。外国人に大阪について聞かれるたびに道頓堀の写真ばかり送っていた自分を反省。今度は建築巡りもしてみよう。


ブライアン・イーノ展

話題の「Brian Eno Ambient Kyoto」展を見に京都へ。


大変メジャーな人だが、正直なところ音楽もビジュアルアートも、これまでの彼の作品は意識して鑑賞したことがなかった。Windows 95の起動音を作ったのが彼だということも今回初めて知った。

会場は京都駅から徒歩約5分の京都中央信用金庫・旧厚生センター。築90年というから昭和初期に建てられた3階建てのビル。最近、レトロな建築物をアート展会場として再生している例をよく目にする。雰囲気のある建物は見に行く楽しみを増してくれる。

今回展示されているのはイーノの代表作3つを含む4作品と、会場内で流れるオーディオ作品。今回のように「音と光」をキーワードにしたデジタルアートの展示は多いけれど、イーノ展はオーディオへのこだわりが特に強い。そのため会場内での撮影は、フラッシュはもちろん、シャッター音も禁止。スマホで無音撮影はなかなか難しいが、iPhoneのLive Photosモードの「ピコッ」という小さな音は見逃してくれていた。

展示は3階から順番に鑑賞。最初は「The Ship」というサウンド中心のインスタレーション。複数のスピーカーからの出る様々な音の不協和音。心地良くはない。「傲慢さとパラノイアの間を揺れ動き続ける人間のコンセプトの出発点とした作品」だそうで…メッセージが深すぎる。何を感じるかはその人次第。

次は新作「Face to Face」。スクリーンに3つの人の顔が映し出され、それぞれ実にゆっくりと違う顔に変わっていく。男性から女性へ。子供から老人へ。じっと見ているとどこが変わっているのかわからないのに、5秒くらい目を離して戻すと結構変わっている。

2階から下はちょっとトーンが変わり、まさに色と音の世界になる。「Light Boxes」という作品では、パターンが異なる3つの光の箱が壁沿いに並び、それぞれ違う色に変化していく。


ライトボックスの光に照らされて座っていると、水族館の大きな水槽に囲まれているような気分にもなる。自分が好きな色合いの出現をぼーっと待ちながら、しばし鑑賞。


場内の階段の壁にはシルバーのパネルが並ぶ。お洒落なインテリアのようでもあり、これもアート作品?と思って聞いたところ、音を吸収し、サウンド作品の音響効果を高めてくれるパネルなのだそう。


展示の締めくくりは1階の「77 Million Paintings」。イーノの代表作のひとつで、日本で2006年に初公開された後、世界を巡回し、16年ぶりに帰還した。音と映像が絶え間なく変化し、唯一無二の空間を作り続ける。作品のタイトルは、スクリーンに映し出されるビジュアルの組み合わせが7700万通りあることを意味している。

ソファーに座りじっくり鑑賞。時々場所を移動して違う角度からも楽しむ。映像の変化の目まぐるしさにも関わらず、心落ち着く作品。

今回のインスタレーションは京都を意識してか、竹林(ではなく明らかに木だけど)の中に三角錐型に積まれた砂が清め塩を思わせる。この清め塩も色を変える。

イーノが最初に「77 Million Paintings」を発表して以降、「音と光のアート」に関する技術はもっとすごいものが出てきているし、没入型アートという言葉も普通に聞かれるようになった。でもあえて没入型というワードを使わずアンビエントを貫くイーノの作品は、スペクタクルではなく、鑑賞者を取り巻く環境として、鑑賞者に受け止め方を委ねたのアートの形だと思う。

これを書きながら今更ではあるが、イーノのアンビエント・ミュージックを聴いてみた。もう少し聴いてみたいと思った。

(Brian Eno Ambient Kyoto展は2022年8月21日まで。)




2022年6月1日水曜日

霧島アートの森

鹿児島県にある「霧島アートの森」へ。

鹿児島空港から車で約40分、公共交通機関で行くなら電車やバスやタクシーを乗り継ぐ必要があり、旅行者にとっては決してアクセスがいいところではない。でもそのために旅する価値が十分ある場所だった。

霧島アートの森は県立の美術館でオープンは2000年。公立美術館としては比較的新しい方かもしれない。屋内所蔵作品は20世紀以降の国内外の著名アーティストの名前が並び、その多くが大型の彫刻作品。定期的にコレクション展と企画展をやっているが、むしろコレクション展の時期を狙っていくのもいいと思う。

屋内展示もさることながら、ここの最大の魅力はその名の通り屋外に拡がるアートの森。栗野岳の麓の豊かな自然の中でアートを楽しめる。高原とはいえ木々には南国らしい緑の濃さと深さがあり、その雰囲気もたまらなく良い。

野外展示作品は各作家がこの地を訪れて作成したオリジナルばかり。霧島の自然から受けたインスピレーションがそれぞれの形で表現されている。

樹林ゾーンでは地図を片手に作品を探しながら歩く。ちょっとオリエンテーリング気分。木々の間から忽然と現れる作品にはタイトルだけで説明はなく、見る者の想像に任せられる。(いちおう解説の小冊子も用意されているが、それは後で作品を思い出しながら読んだほうがいい。)人によるかもしれないが、自然環境の中で見るアートは、その意味を考えるより先に風景として捉える。個々の作品の好き嫌いは置いても、風景として調和しているか、していないかの第一印象はとても重要なものだと思う。霧島アートの森の作品は、ほとんどがそこに上手に存在していた。


「溶け込む」ことを突き詰めた作品はアントニー・ゴームリーの「インサイダー」。これ、その場に行ってもよく見ないとどこにあるかわからない。昆虫の擬態のようだと思った。


自然環境と一体化した作品で知られ、昨年(2021年)5月に亡くなったダニ・カラヴァンの「べレシート(初めに )」。スリットから光が差し込む暗いトンネルの先端まで行くと、高台から見下ろすパノラマ風景が開け、森の中だけで閉じていた視点が変わる。



他にも二十数点の屋外作品がそれぞれフォトジェニックな風景を作っている。この充実度で、樹木も良く手入れされていて、更に言うとカフェの食事も美味しくて、入場料が大人320円というのは奇跡に近い。こんなところの常連さんになれる地元の方、うらやましい。
残念ながら地元在住ではない私は、魔法のような森を後にした。次はいつ行けるだろう。そしてその時はどんな風景が見えるだろう。