2013年5月12日日曜日

印象派たちの光と色~エクス・アン・プロヴァンス ②サント・ヴィクトワール山

ポール・セザンヌはサント・ヴィクトワール山の絵を油彩44枚、水彩43枚、計87枚も描いたそうだ。
そこまで画家を魅了した山はどんなところなのか、実際に行った旅行者のレビューも読んでみると、すこぶる高評価。これは行くしかないでしょう。

エクス・アン・プロヴァンスからバスで40分ほどで、山の北側のヴォーヴェンナーグ(Vauvenargues)という町に着く。短い通りの両側に市役所や郵便局、カフェが並ぶだけの、静かなチャーミングな町。

インフォメーションセンターで、もっとも簡単なルートを聞いてから、黄色でマークされた入口を手がかりに歩き始めた。青空の下、様々な花や木々を眺め、鳥の声を聞きながら歩く。しばらく歩いていると、ハイキングというよりトレッキングと呼ぶのが適切な、岩がちな斜面や細い山道が続くようになる。あれ?これって最も簡単なコース?と思っていると、どうやらいつの間にか中上級コースに入ってしまったらしい。どこで間違ったのか、そもそも最初は合っていたのか、さっぱりわからない。

数年前にスイスのツェルマットでハイキングをしたときも、同じようなことがあった。係りの人に教えてもらった方向に歩いたのに、どこかで逸れたのか思った道とは違うところを歩いていて、結局、予定とは別のところから出てきたことがある。決して方向音痴なほうではないし、その時はひとりではなかったのだが、やはり日本の懇切丁寧な地図や表示に慣れているとこういうことが起こるのかもしれない。簡単なハイキングコースでも、地図とコンパスくらいは持って出かけるべきなのだろう。

さて、間違ったことに気付いたところで、戻るのも気が進まないし、それなりに歩けたので、まあいいや、と、そのまま歩き続けることにした。

サント・ヴィクトワール山は、遠くから見ると白い岩の塊のように見えるが、実際はかなり上のほうまで低木や様々な小さな花々が岩がちな斜面に生えている。上に行くに従い風がすごく強くなり、歩くのもままならないほどだったが、そこから間近に見た白い岩肌の崖は実に迫力があり、神々しい感じすらした。サント・ヴィクトワール山ならではの魅力をやっと見たと思った瞬間だった。ここまで来られて良かった!

今回私はかなり軽装で行ってしまったが、本来はしっかりした靴と装備で臨むのが適切なコース。また岩が多いので、雨上がりで地面が濡れているときはやめたほうがいい。

さて、実際に登ったサント・ヴィクトワール山だが、まだ全景を見ていなかった。セザンヌが好んで写生した場所が、セザンヌのアトリエから更にあるいて15分ほどのところにある。そこには世界各地の美術館に収蔵されている彼のサント・ヴィクトワール山の作品の写真が9枚並び、そこからサント・ヴィクトワール山を遠くに臨むことができる。ここから見るとあの木々も花も見えず、白い岩山に戻っている。でも、それこそがセザンヌを惹きつけた神秘性なのかもしれないと、今は思う。